全米で毎月平均3万台、つまり毎日1000台も販売されている。カムリはバニラアイスクリームだ。平凡かも知れないけど、市場はバニラが好きなのだ。どうしてわざわざ他の味を投入する意味があるだろう。「それが合っているなら、手放すな」という諺だってある。皮肉ではないんだ。
実は、同車の開発主査の勝又正人も「カムリは食パンだ」と言う。「特にアメリカではね。毎日食べても大丈夫、決して失望することがないのが、食パンです」
ところが、トヨタは新しい道を行くことに決めた。食パンの材料を変えてみようと。勝又によれば、SUVの人気急上昇の影響でセダンの販売台数が年々、少しずつ落ち気味だと言う。セダンであるカムリの寿命を延ばすために、思い切ってデザインを一新する必要があった。
数年前、豊田章男社長はトヨタの高級ブランド、レクサスのみならずトヨタのデザイナーにも、「もう、平凡さはいらない、もっと個性的でスタイリッシュでなくてはならない」と宣言していたのだ。ということで、外観の平凡さを捨てて、こんなに変身したということだ。なるほど。
正直に言って、新型カムリは、かなりカッコいい。従来と比べてよりワイド&ローというプロポーションがよくなっている。全体的にボディとシルエットは評価できる。だが、日本向けのグリルについては、賛否両論だ。良く言えば「トランスフォーマー」に登場するロボットに付いていればぴったりのような、ガンダムっぽいデザインだ。でも悪くいえば、目を細めて睨んでいる歯列矯正中の猫か、オキアミを飲み込んでいるクジラのようだ。
しかし、面白いことに、アメリカ仕様の中には、よりシンプルでスポーティなグリルもオファーされている。それは羨ましい。
さて、室内もバニラ・アイスを脱する路線で、ダッシュボードはS字にインスパイアされたデザイン、これまでより高品質な素材を使ったコクピットはなかなかいい。シートにはスタイリッシュなステッチも施されているしね。デザイナーがかなり頑張ったことは、よく分かる。
室内に採用された木目調のトリムは、好きな人は好きだろうという感じ。予算をかけた部分と、節約したところが一目瞭然。たとえば、インフォテイメント・システムにはお金がかかっているが、黒いプラスチック製のカップホルダー周りは、ダッシュボードに比べて合理化されたことが分かる。
さて、エンジンだ。ホンダ・アコードを含めて、ライバル車種の多くはより小型の4気筒ハイブリッド、ターボになる傾向だが、新型カムリはアメリカでは2.5Lガソリンエンジンと2.5Lハイブリッドに加え、やはり人気のV6も揃えている。ただし日本ではCVT付きの4気筒2.5Lハイブリッドのみだ。