まず人々の関心は、白石隆浩容疑者の生い立ちや殺人動機、そして猟奇性に向かったが、同時に被害者たちとの接点にも注目が集まった。白石容疑者は、ウェブサイトやSNSを通じて、「自殺願望」を持つ被害者たちに接触。その心理を巧みに犯罪に利用したというのだ。
2017年5月、政府は「平成28年度自殺対策白書」を閣議決定している。その資料に盛り込まれた警察庁統計によると、2016年の自殺者数は2万1897人。その前年2015年には、3万4427人を記録したとされている。同白書が比較した約90カ国内では、ワースト6位(女性は3位)の自殺率となった。自殺の全体数は減少傾向にあるとされているが、いまだ日本の社会的課題のひとつであることは間違いなく、解決の糸口は見つかっていない。
自殺問題と向き合う際には、様々なアプローチがありえる。経済状況の改善や社会との繋がり、すなわち格差や孤独感を解消することこそ自殺撲滅に繋がるという専門家や有識者の主張も多い。一方で、医療・ヘルスケア的なアプローチも考えうる。潜在的に自殺願望を持つ人々を把握することができれば、与えられた時間的猶予で決定的な状況を回避できる可能性がある。
昨今、そのような自殺願望を発見する手段として、期待を浴び始めているテクノロジーがある。がんなど病気の発見、また新薬開発などにおいて成果を出し始めている人工知能(AI)だ。
これまで身体に起きている変化や病気を見つけられたとしても、自殺を考えている人々を把握することは困難とされてきたが、脳画像・映像、診療記録などのデータから、予備自殺者を特定できるという研究結果が相次いで発表され始めている。
今年10月末、米カーネギーメロン大学のMarcel Just教授ら研究チームは、「Nature Human Behaviour」誌で、「AIで脳イメージを分析し、自殺する可能性が高い人々の90%以上を判別することに成功した」との研究結果を報告した。より詳細には、一般人と「自殺危険群」を91%の精度で、また自殺危険群のなかで実際に自殺を図った人々を94%の正確性で判別することに成功したというのだ。一体、どういうことか。