私がカウンティー・スライゴを訪れたのは平日の午後だった。駐車場にはベンツなどの高級車がずらりと並んでいた。「アイルランドにしては珍しい光景だな」と思いつつチェックインすると、今まさにラウンドを終えたばかりの女性たちが、集まってきた家族とともに賑やかな午餐会を楽しんでいるただなかであった。その日は、年に1回開催される女性会員だけの選手権の日だったのだ。
観光客が押し寄せるペブルビーチの喧騒とはまるで違う、独特の素敵なクラブ・ライフの典型例を垣間見た気がして、大変気持ちのよいスタートを切ることができた。
クラブのホームページでも説明されているように、トップクラスのプレイヤーから一般のゴルファーまでが天候に合わせていかようにも楽しめ、かつ苦しめられる設計は、さすがコルトの名作だ。狭くてヒースが多い他のゴルフ場と比べると、幅もまあまあ広く、ティーショットものびのびと打っていける。
その日、夕方にスタートを切った私が見たカウンティー・スライゴは、格段に美しかった。巨大な石灰石でできたテーブルのような形をしたベン・バルベン山を遠方に望み、さらにその前後へ広がる美しいドラムクリフ湾の絶景で圧倒される。
ケルト神話にたびたび登場する聖なる山、ベン・バルベン。
特に、クラブハウスへ向かうインの11番から17番までの眺めは、この世のものとは思えなかった。アイルランド特有の小雨が数ホールほど降ったあとは、夕日がこれでもかと降り注ぎ、ドラムクリフ湾からベン・バルベン山の上空にそれはそれは大きな虹が架かったのだ。今までプレイしてきた数々のコースの中で最も美しい眺めであった。
プレイが終わったのは夜の9時半だった。その後、19番ホールでゆっくりおいしいギネスを飲みながらコースの美しさの余韻に浸り、10時半にクラブハウスを後にした。外はまだ明るく、チューダー様式のクラブハウスにアイルランドの夕日が映えて、まるでアイルランドの妖精に出会えたかのように幸せな気分になった。
すでにアイルランドを訪れたことがある方も、そうでない方も、“The Point”に行かずして死ぬなかれ!
こいずみ・やすろう◎FiNC 代表取締役CSO/CFO。東京大学経済学部卒。日本興業銀行、ゴールドマン・サックスで計28年活躍。現役中から、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢・発起人、TABLE FOR TWO Internationalのアドバイザーなど社会貢献活動にも参加。お金のデザイン社外取締役、WHILL、FC今治のアドバイザー。