ビジネス

2017.09.08

ロレアルが「グローバルな人材育成」に成功している理由

(左から)デロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏、日本ロレアルのジェローム・ブリュア氏、早稲田大学大学院の入山章栄氏

1909年のパリで創業以来、国や文化を超えてビジネスを行ってきたロレアル。現在は世界140カ国で、ランコム、イヴ・サンローラン、メイベリン ニューヨークなど、全34ブランドを展開する世界最大規模の化粧品会社グループだ。

2015年7月より、日本ロレアルの代表取締役社長を務めるジェローム・ブリュアは、フランス、ベルギー、ドイツ、日本、米国の5カ国において、マーケティング担当や現地法人社長として多様なビジネス経験を培ってきた。

早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授の入山章栄とデロイト トーマツ コンサルティング執行役員パートナーの日置圭介は、「将来の経営人材をグローバル規模でローテーションし、『グローバルな多様性』を体に染み込ませ、現地で徹底的に意思決定をさせる人材育成」を高く評価。その結果、グローバルとローカルの両方に対応できる人材育成に成功していることを、同社の強みであると分析する。


入山章栄(以下、入山):ブリュアさんは、本連載初となる「外国出身」の日本法人トップ。15年に着任するまでには、日本を含む世界5カ国を巡るグローバルなキャリアを歩んできたそうですね。

ジェローム・ブリュア(以下、ブリュア):私は、母国フランスのビジネススクールEDHECを出た後、ベルギーのロレアルでセールスマンとしてのインターンを経験し、91年にロレアルのフランス本社へと入社。香水ブランド「ダニエル・エシュテル」のプロダクトマネジャーを経て、「ロレアル パリ」ヘアケア事業グループプロダクトマネジャーとして「エクセランス ヘアカラー」などのブランドを担当しました。

その後、再びマーケティングに戻り、ジュメ フランス事業部のマーケティングマネジャー、メイベリン ニューヨークのインターナショナルマーケティングマネジャーを務めました。

入山:当時は、おいくつですか。

ブリュア: ここまでが、34歳までのキャリアです。その後は、ロレアル ベルギー社のメイベリン─ガルニエ事業本部事業部長から、ベルギーの5倍の市場規模を誇るロレアル ドイツ社の同役職へと昇進。日本でマスマーケット事業部門全体の責任者を経て、ロレアル ドイツ社の社長に。さらに、アメリカのメイベリン ニューヨーク国際事業本部のグローバルブランドプレジデントを経て、現職です。前職では、ブランドの拡大のみならず、新製品から新広告、国別戦略、地域別ブランドの開発まで、ブランド開発全般を担当しました。

入山:ブリュアさんは、欧州・米国・アジアなど様々な国でのビジネスと、グローバルブランディングの責任者からカントリーマネジャーまで、実に多様な役職を経験してきましたが、こうしたキャリアは、ロレアルの経営人材にとって、一般的なのですか。

ブリュア:はい。ロレアルで昇進するためには、世界各国の異なるブランド・役職をローテーションで経験することが、必須条件です。

日置圭介(以下、日置):こうした特徴的な人材育成の狙いは、どこにあるのでしょうか。

ブリュア:マネジャーたちに「多様性の価値」を理解させることです。世界中の消費者に向き合うロレアルにとって、「国ごとに特徴の異なる多様な顧客に合わせる」ということは、ビジネスの大前提。しかし、「多様性」を頭で理解していることと、仕事を通して体験していることには大きな差があります。

多様な国籍のマネジャーが、様々な国で、そのローカル市場に特徴的なブランドの受け入れられ方を目の当たりにする。「多様性をより理解している人が、より良い意思決定ができる」と考えるのが、ロレアルらしい人材育成であると思います。
次ページ > ユニバーサリゼーションが全社に浸透

文=山本隆太郎 写真=マーティン・ホルトカンプ

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事