マイクロソフト「リアルタイムAI」目指すプロジェクトBrainwave始動

Photo by David Ramos/Getty Images

グーグルは人工知能(AI)領域で優位に立つため、専用プロセッサの「Tensor Processing Unit(TPU)」を開発した。TPUはディープラーニングのアルゴリズムに特化した機能を持つチップだ。グーグルはまた、グーグルクラウド上で動作する「Cloud TPU」と呼ばれるボードを開発し、外部企業らが利用可能にしようとしている。

そして今、マイクロソフトはProject Brainwaveというプロジェクトをアナウンスし、速くて効率的なディープラーニングが、同社のデータセンターで行える仕組みを構築しようとしている。

マイクロソフトのアプローチはグーグルのそれとは少し異なる。特定のアルゴリズムに特化した専用プロセッサを開発するのではなく、再プログラミングが可能なFPGA(field-programmable gate arrays)と呼ばれる種類のチップを用いるのだ。

マイクロソフトは今回のプロジェクトに、インテルが2015年に買収したアルテラが製造するFPGAチップを用いる。同社の主任エンジニアのDoug Burgerは、「専用チップを用いたディープラーニングよりも柔軟なシステムの構築を可能にする」と述べている。ディープラーニング領域では毎月のように新たな進化が起きつつあり、柔軟性は非常に重要だ。

Project Brainwaveはカリフォルニア州クパチーノで開催中の「Hot Chipsカンファレンス」の会場で発表された。「我々が目指すのは大規模に実装でき、革新性が高く、広範囲に適用可能なソリューションだ」とBurgerは述べた。

マイクロソフトのProject BrainwaveはグーグルのTensorFlowやフェイスブックのCaffe2、さらには自社のCNTKなど、複数のディープラーニングのフレームワークをサポートすることになるという。

イノベーションの鍵は「FPGA」

FPGAは各種のアプリケーションで柔軟な対応が可能だが、パフォーマンス面では課題もある。しかし、BurgerによるとマイクロソフトはFPGAに微調整を加えた結果、専用チップに匹敵し、時には上回るパフォーマンスを生み出すプロダクトに仕上げることに成功したという。

GRU(gated recurrent units)と呼ばれるディープラーニングモデルの実行において、マイクロソフトのハードウェアは40テラフロップス(TFLOPS)近いパフォーマンスを実現し、個々のオペレーションを1ミリ秒以下で実行可能だという。

Project Brainwaveが強みを発揮する領域をマイクロソフトは「リアルタイムAI」と定義し、特にディープラーニングのアルゴリズムの実行面で強みを持つという。現状ではProject Brainwaveはマイクロソフトの内部のAIサービスのみで利用可能だが、将来的には同社のクラウドサービス経由で外部企業に解放する可能性もある。

マイクロソフトはセキュリティや検索エンジンのBing向けにFPGAの研究を開始し、数年をかけて調査を重ねてきた。同社は現在、世界最大の規模でFPGAを運用しているという。Project Brainwaveのチームは今から約1年前に、FPGAのインフラを最新のディープラーニング技術に適用させていくミッションを与えられたという。

「我々のチームはFPGAを巨大なスケールで実行中だ」とBurgerは述べた。「このテクノロジーはAzureのクラウドを通じ、世界で運用可能になる」

マシンラーニングの発展型であるディープラーニングは、テック業界のあらゆる領域に拡大を開始した。ディープラーニングは言語認識や画像認識、翻訳といった分野に大きな前進をもたらそうとしている。この分野の基盤を支えるハードウェアインフラの発達が、今後の進化を左右する。

この分野ではエヌビディアのGPUが市場をリードし、同社の株価は過去1年で3倍近い上昇を遂げた。しかし、グーグルをはじめ様々なスタートアップ企業らも新たなプロダクトを投入しようとしている。

編集=上田裕資

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