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2017.08.29 10:00

報道されない「ホームレスサッカー」という大実験

野武士ジャパンの試合の様子(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)

野武士ジャパンの試合の様子(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)

8月31日に開催される2018年W杯ロシア大会・アジア最終予選に注目が集まっているサッカー界だが、ホームレス・ワールドカップ(HWC)というサッカーの世界大会があることを、あなたはご存知だろうか。

HWCはその名の通り、選手がホームレス、彼らの自立を応援するサッカーの世界大会だ。その日本代表チームが「野武士ジャパン」。私は、2009年からボランティアとしてコーチ・監督をしている。

今年のHWCは、8月29日から9月5日にノルウェー・オスロで開催される。残念ながら日本チームは今回の出場も見送った。

ホームレス・ワールドカップとは

HWCは、サッカーというスポーツの可能性を見出す世界的な大実験だ。コートに立ち、同じゴールを目指す過程で、社会復帰のために必要なスキルやコミュニケーション能力を学んでもらおうという取り組みで、世界中で行われている。最多の競技人口を有するサッカーが貧困や労働などの社会課題の解決に資する社会技術として注目されており、その活用が具体的にはじまっている。

それが、ホームレス・ワールドカップ、すなわちストリートサッカーの世界大会だ。本家W杯の4年に一度とは異なり、2003年から毎年開催されている。

例えば、メキシコではストリート・サッカーリーグがプロサッカーと同様に組織されており、およそ2万人の中から8人の代表選手が選出される。大会に参加する選手たちにとっては、自立に向けた大きな目標となっており、それは日本のサッカーチーム「野武士ジャパン」の選手にとっても同じだ。

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野武士ジャパンも参加した2011年のHWCパリ大会にて(写真=ビッグイシュー基金、野武士ジャパンより)

2011年にHWCパリ大会に参加した野武士ジャパンは全戦全敗だった。前後半7分ずつの13試合で喫した失点は138点という大敗戦。順位はもちろん最下位、「世界で一番負けた日本代表サッカーチーム」となった。

以来、日本チームはHWCに出場していない。その理由は、野武士ジャパンのチーム側、そして日本の社会環境側の双方に理由があるように思う。

日本と海外で異なるホームレスの定義

野武士ジャパンの平均年齢は、2011年のHWC当時で50才程度だった。それに対して、私もとても驚いたが、カンボジアやベトナムチームの平均年齢は16〜17才。大会に集まる70カ国の平均年齢は22歳だった。

ここまで差が出る最大の理由は、「国ごとにホームレスの定義が違う」という点にある。もっとも一般的と思われるヨーロッパの定義では、知人や親族の家、福祉施設などに住み「自分の名義で住むところ」を持っていない人も“ホームレス”と呼ばれ、「潜在的なホームレス」も含まれている。HWCに出場した途上国のチームには、レストランに住み込みで働く見習いコックなどもいた。

路上生活をしている人だけでなく、安定した住居を持たない潜在層をホームレスの定義に含めることで、予防的な施策を取れるようになるのだ。社会保障、スキル習得なりキャリアアップなりを講じて、社会負担の影響を最小限に留めるという原因除去型のアプローチだ。
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文=蛭間芳樹

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