英国では国民の年齢の中央値(中位数年齢)が40.5歳となり、いわゆる中年の危機(中年期特有の心理的危機)が懸念され始めている。東欧諸国でも高齢化が進み、欧州全体では出生率が、10年後までにゼロになると予想されている。欧州連合(EU)加盟各国の政策当局が、移民の受け入れを積極的に支持するのも当然のことといえる。
EUが域内における高齢者の貧困問題を解決し、巨額に上る給付金の支払いを継続するための唯一の処方箋は、移民の受け入れを増やすことだ。さらに、その他の選択肢として考えられるのは、20~30代の若年世帯向けに2人目以降の子供の出産に対する奨励策を実施することだろう。
「分断」招く移民受け入れ
「人道的危機だから」と主張すれば、政治に無関心な有権者にも移民受け入れの正当性をより容易に納得させることができるかもしれない。欧州に流入する移民の多くは、リビアやシリアの国民だ。
だが、これらの国の人々は欧州域内において、深刻な政治対立を引き起こしている。政治家や高給取りの政党ブレーンたちは、移民問題に対する主張を異にする人たちを「クンバヤ」(考えの甘い)進歩主義者や排外的な人種差別主義者として簡単に非難・中傷するようになっている。
EUが過去に東欧の人々を受け入れてきたことは、同時に欧州の資本市場と労働市場を東欧に向けて拡大することだった。EUはそれによって労働人口を増やし、製造業の賃金をポーランドやチェコの水準まで引き下げることに成功した。
ただ、EUはそれで若年層の労働力を確保することはできなかった。米中央情報局(CIA)の「ワールド・ファクトブック」によると、ポーランドとチェコの中位数年齢は40.3歳と41.7歳。また、リトアニアは43.4歳となっている。バルト3国の若年層(40歳未満)はロンドンやストックホルムをはじめとするより豊かな西欧の都市に多数が移住したが、それでもスウェーデン国民の中位数年齢は米国より高い41.2歳だ。
欧州への移民の多くは現在、イラクやリビアなど中東の出身者となっている。中位数年齢はイラクが19歳、リビアが24歳。つまり、欧州各国はこれらの国から将来の子どもを「輸入」しているのと同義だ。国際決済銀行(BIS)の推計によれば、例えばドイツではこうした「輸入」された移民の労働力がなければ、年金制度が財源に大きな問題を抱えることになる。
だが、今月発表されたBISの報告書によると、低所得国からの人口流入は難民・移民の受け入れ国における不平等の原因の一つとなっており、政治的混乱を招いている。