モータースポーツは市販車にその技術をフィードバックするというのが建前だ。しかしその頂点にあるF1GPなんかは技術が市販車に反映されたという話はほとんど聞かない。
素材からメカまで、速さを突き詰めれば市販車のことなんか考える余裕なんてない。逆に“フォーミュラ=規格”という意味どおり、規定が厳しく、アイデア豊かな技術は過去、ことごとく禁止されてきた歴史があるほど。
もうひとつのメジャーモータースポーツといえばラリーだ。ラリーはサーキットを走るレース(モナコは公道だが)とは違い一般道を使う競技。当然ナンバー付き車両で競われる。日本の自動車メーカーで力を入れているのはトヨタ。なにしろ豊田章男社長自ら現役ラリードライバーなのだから。
豊田社長は社長就任後レーサーとして海外レースに参戦を続けた。当初は「社長たる者がレース出場なんて…」と、周辺やマスコミは本当に冷ややかだったが、「世の中の社長が本業とはまったく関係ないゴルフをやっても批判されないが、私が週末に本業と密接な関係があるレースをやって何が悪い!」とプンプン怒っていたこともある。
章男社長のステアリング。細かく白いラインが入っているのはコーナーに合わせた切り角の目安。研究熱心だ。
著者は以前、ニュルブルクリンク24時間レース用のスポーツカー、LFAの助手席に乗せてもらったことがあるが、基本に忠実で安定感タップリの運転に感心したことを覚えている。
その豊田社長が次に注目したのは公道が舞台のラリーだ。2012年末に初参戦し、多忙な中、2013年にはシリーズ戦にフル参戦。確かチャンピオンになったと記憶している。今年も6月の第4戦(福井県)に出場しているが、初参戦以来すべて完走していることが素晴らしい。
「私がクラッシュやマシントラブルで止まっているわけにはいきませんから」と豊田社長は笑う。(以上、TRDラリーチャレンジ、今年からTGRに名称変更したラリーシリーズの結果)
そんな社長が掲げるモットーは「クルマは道で鍛えられる」だ。サーキットと違い、あらゆる道路条件がある公道で競われるラリーがクルマを進化させるというのだ。
トヨタは2002~2009年までF1GPに参戦。撤退の時、「文化が違う」と社長は語ったが、他の理由にそのあたりのことがあったのだろう。トヨタはF1に続く世界規模の戦いに世界ラリー選手権(WRC)を選び、長年の準備の末、今年から18年ぶりに復帰、2月のスウェーデンで優勝している。
クルマは道で鍛えられる──そのポリシーから、トヨタの技術者や部品会社からの参加者が急増。それだけでなく、トヨタの事務系社員の参加も多い。クルマに対するスキルを上げる目的なのだろう。重役も例外ではなく、早川副会長もドライバーとして今年も出場中。他の役員の参加も多い。さらには豊田社長の女性秘書、子息の大輔さんも自らマシンを作り、今年も参戦中。
まさにトヨタグループ一丸となっての活動だ。休日に親子でラリーの練習をしているのだろうか……、微笑ましい。
2014年には章男社長が自らセッティングしたラリー仕様車をイベントで展示。発売の可能性もあったが、未だ出ていない。残念。