台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、シャープを買収する契約を結んだのが2016年の4月初めだった。当時の鴻海のシャープ株の取得価格は1株当たり88円。郭台銘(テリー・ゴウ)董事長の手腕もあり、株価は17年3月3日時点で344円に上昇した。経営再建はまだ成功とはいえないが、株価は見事に回復した。
リスクを取ったテリー・ゴウ氏の勇気と手腕は称賛に値する。会社は経営者次第。一方で、それを日本のファンドや企業経営者ができなかったことに寂しさを感じる。
新生銀行が再上場したとき、出資した外資系ファンドが大もうけしたと批判された。国会では「ハゲタカは不当にもうけた」との声が出た。しかし、誰にも平等に買うチャンスがありながら、日本人で手を挙げる人はいなかった。
かつて堀江貴文氏が経営していたライブドアも韓国のネイバーの子会社と経営統合した。その会社が現在のLINEである。LINEが株式上場すると、ネイバーは大きな利益を得た。ネイバーはよい会社で、経営陣も非常に優秀だ。その成功はもちろん称賛に値するが、みすみす外国資本にチャンスを奪われているようで、日本の投資家としては残念に思う。
私はいま、東芝に関心を持っている。米原子力事業の巨額損失の穴埋めとして、半導体部門を分社化したうえで、株式の売却が検討されている。買収に手を挙げている会社は韓国や台湾の企業がほとんどで、日本の会社は静観の構えだ。
確かに、東芝はよいガバナンスがされている会社ではなかった。その点は本連載でも指摘してきた。最も問題なのは不適切な会計処理をして投資家を欺いたこと。経営者は当然責任を負うべきである。
とはいえ、東芝の半導体部門には技術力があり、特にNAND型フラッシュメモリーは最新の記憶媒体ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に使われる虎の子の技術である。ライバルのサムスン電子は主力製品の不具合やガバナンスの問題が発生し、盤石とはいえないので十分に勝機はある。
また、インターネットの普及、特にクラウド需要の増加によりデータセンターにおけるサーバー需要は急拡大している。この勢いがしばらく続くことを考えれば、大きなビジネスチャンスだ。このディールだけは、日本の資本や企業経営者に手を挙げてもらいたいと強く思っている。