もうひとつすごかったのは、アマゾンの音声認識装置アレクサにいろいろな情報を設定し、話しかけるだけで何にでも答えてくれるようにする「Beyond Click」だ。
例えば自分のメンバーシップポイントの情報を取れるようにしておけば、休日アレクサに「今日何をしよう」と話しかけるだけで「ポイントがたまったので一日フェラーリが借りられますよ、ドライブはいかがですか?」「もしくはフリードリンクを楽しむのもいいですね」と何ができるか選択肢を見つけて教えてくれる。さらに「どんなドリンクがフリーなの?」と聞くと「モバイルにリストを送ります」といった具合だ。
遊びだけではなく、仕事でももちろん活用でき、ホテルの支配人であれば「今日のホテルの稼働率はどうかな?」と聞くだけで、「稼働率は○○%。先週に比べるといいですね」と答えてもくれる。こういった人工知能(AI)が人間の執事を務める世界がもうすぐ現実になるかもしれないと思わせてくれた。
そのほかにも、企業が複数のプロモーションを同時に行っていても、デバイスやページを問わず特定の人に最適なプロモーション・オファーが出るようにする「Right Offers」、マーケティング戦略の構築に欠かせないカスタマー・ジャーニーを自動的に作ってしまう「Journey AI」、大量のコンテンツをカスタマー・セグメントに合わせて自動的に作る「AI Experience」など、マーケターにとっては実現が待ち遠しいSneaksがたくさん紹介された。
マーケターでない人にも、空をワンクリックで差し替えて、ちょっとがっかりだった写真を素敵な写真に変えてしまう「Sky Replace」は魅力的だと思う。
「ついでに商品も売る」という考え方
今回のAdobe Summitのテーマは「Make Experience Your Business」、つまり「エクスペリエンス(経験や体験)で売り上げを上げましょう」だった。エクスペリエンスを重視している企業は、そうでない企業より20%以上収益が高いのだという。
アドビのエクゼクティブ・バイス・プレジデントのブラッド・レンチャー(Brad Rencher)氏いわく、「昔は食べ物を買うには食材を買いに行きましたが、今は下準備され、レシピも付いたものが家に届いてほしいと思ってしまいます。洋服も、自分向けにコーディネイトされたものが元から提案され、ついでに返品もできるべきだ、と。顧客はとても貪欲になっていて、商品ではなくてエクスぺリエンスを求めているのです」
顧客が望みそうなものを企業が想像して提供する時代は終わり、技術が進歩した現代は、顧客一人ひとりの声を具体的に聞いて、望みのエクスペリエンスを形作ることができる時代ともいえる。顧客の望むエクスペリエンスを提供する際に、ついでに商品も売る。そんな時代がもう来ているのだ。
このカンファレンスには日本からも約200人が参加していたが、ヨーロッパやオーストラリアの企業が事例として取り上げられる中、日本の会社は残念ながら一つも取り上げられていなかった。マーケティング後進国と言われて久しい日本ではあるが、それだけはやっぱり残念だった。
先進事例が増えるということは、私たちの“買い物エクスペリエンス”がより良くなるということ。来年は日本初の素敵な事例が見られることに期待したい。