韓国の大財閥の役員を務めた財界筋によれば、時の韓国政府が企業に資金協力を要請することは昔からあったという。「大統領自ら、企業幹部と直接会って要請したのは、全斗煥氏と朴槿恵氏くらいだが、要請自体は日常茶飯事だった」と語る。「喜んでカネを出した企業などない。でも、出さないと税務調査などで嫌がらせを受ける。みな、税金だと思ってカネを出していた」とも話す。
国際的にみてみると、五輪や万博のような多額の資金が必要になる国家行事の際、政府が企業に協賛を求めることはよくあることだ。ただ、どの国家でも非営利の実行委員会を作り、ルールを決め、企業側の自主的な協賛を募るのが一般的だ。
朴氏の場合、有権者の知らないところで、しかも自分の知人のチェ・スンシル被告がからむ財団への協力を企業に迫った。自主性と透明性が担保されていないから、企業は「断ったら何をされるかわからない」という恐怖心にかられる。踏み絵を踏まされたわけだ。
韓国検察が今回の事件で、この悪習が犯罪であると位置づけたのも頷ける。
この話をしながら、知人の韓国政府高官がぼやいた。「額は小さいけれど、韓国政府は税金以外でも市民にカネを強要することがある」。
高官によれば、韓国では昔から大きな災害や事故が起きると、「率先垂範」という意味合いから、公務員に義援金を徴収することがよくあるのだという。この話を別の元高官にすると、「確かに、有無を言わせずに給料の0.1%などと決めて天引きされたことがよくあった」と話してくれた。
韓国政府の高官と元高官は、口をそろえて「国の政策なら、税金の範囲で解決すべきだろう」と怒っていた。これもある意味、一つの踏み絵だ。給料の天引きを断ったら、その公務員は人事などで不利益を被るかもしれない。半強制的に政府への協力を迫られたわけだ。
これと同じことが最近、北朝鮮でも起きた。
北朝鮮北東部、咸鏡北道の中朝国境地帯は昨夏、大規模な洪水災害に見舞われた。金正恩朝鮮労働党委員長は大いに慌てた。元々貧しい地域で、放っておいたら人が住まなくなる可能性もある。国境地帯だけに領土の危機だ。平壌市の大規模な建設作業なども一時中断し、被災地域での復旧作業にあたらせた。
このなかで、被災地の住民が喜んだのが、新しいアパートとともに正恩氏が贈った衣類や食料品などだった。
ところが、この話には裏があった。北朝鮮関係筋によれば、北朝鮮当局は平壌市民らに対して、「被災者に贈る衣類や食糧の調達」を命じたのだという。被災地に古着などを送るのはよくある光景だが、そこは「最高指導者の贈り物」なので、きっちりと「同じデザインや大きさの衣類を数百着」といった具合にそろえるよう指示がきたという。市民たちは「制裁で苦しいこのご時世、そんなものがどこにあるのか」と愚痴をこぼしながら、衣類や食料品をかき集めたという。
これも、税金以外に強制的に負担を強いられたという意味では、韓国の話と共通する。きっと平壌市民が協力を拒んだら、韓国の公務員よりも遥かに過酷な罰が待ち受けていただろうということは想像に難くない。