こう聞かれたら、失礼な質問だと感じる人は多いだろう。
一般的に人は、自分には良識があり、物事を客観的に判断して平等に対応しているので「偏見は持っていない」と思っている。優秀な人やポジションの高い人ほどその傾向がある。しかし、過去20年間ほどの数多くのリサーチから、実は人間はみな偏見を持っていることがわかってきた。
近年、ダイバーシティ、中でも女性活躍を推進するにあたり、欧米で急速にこの「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」というテーマが注目を集めている。無意識の偏見とは、ある人や集団などの対象対し、自覚なく持っている偏った見方・考え方である。
偏見にはそれなりの機能があるので、必ずしも悪いとは限らない。ただ、十分な根拠や事実に基づいていないため、しばしば間違った判断や意思決定をする材料となってしまう。
ダイバーシティ発祥の国アメリカでは、その取り組みが進むにつれ、男女の賃金格差が縮まり、1980年代には女性の大学卒業者が男性を上回り、能力的にも男女互角となった。それに伴い女性管理職も増えるなどの成果も出た。しかし、2000年前後からは進捗のスピードが鈍くなり、中間管理職の上、特にシニアリーダー層での女性の割合が期待ほど伸びていない。
いわゆるミドル世代(30代)は、家族ができる時期と重なるため、欧米でも仕事と家庭の両立は女性の方が負荷が多くキャリアが停滞する。しかし、家庭との両立が関係ない独身や子供のいない女性でもシニアマネジメントは圧倒的に少なく、両立問題を差し引いても「おかしい」のである。
それが問題視され、数多くの実験研究や調査が行われた結果、女性活躍推進の阻害要因の大きな一つが無意識の偏見だということが明白となったのだ。リサーチ結果から分かったことをまとめると下記の通りだ。
1. 人間はみな偏見を持っている
2. 無意識の偏見が、女性やマイノリティの採用、評価等の意思決定にゆがみを与え、他にもさまざまなネガティブな影響を職場にもたらしている
3. 無意識の偏見の影響は抑えることができる
欧米企業では、無意識の偏見に対して適切な行動を可能にする第一ステップとして「社員研修」を行う企業が増えているが、特に意思決定権限を持つマネジメント層の意識を高め、行動を変えることが急務となっている。
シニアマネジメント以前の中間管理職層で女性比率が圧倒的に低い日本は、「無意識の偏見」だけでなく「意識の偏見」の影響もあるため、状況はより深刻だ。現在指摘されている両立や長時間労働の問題が解決しても、無意識の偏見への対応を行わない限り、欧米同様、女性活躍推進は停滞するだろう。
さて、私の個人的意見だが、近年、無意識の偏見への関心が大きく高まった要因の一つとして、ダイバーシティに前向きでなかった著名なIT企業が積極的に取り組み始めたからだと思う。
多くの大手企業がダイバーシティの基本データ、社員の属性別の社員構成を公表する中、ほとんどのIT企業は公表せず、世間から「ダイバーシティが進んでいない」と批判される白人・男性の世界だった。
そのような状況でグーグルが2014年に社員の性別と人種構成を発表したのだが、それは1998年の創業以来初めてのこと。その数値はみなが推測したように、米国の他大手企業と比べ寂しいものだった(日本企業よりははるかに進んでいるのだが)。さらにグーグルは、社内でダイバーシティが進まない要因の一つが無意識の偏見だと指摘した。
データを重視するグーグルの公言だから影響が大きかった、と私は思う。同社はそれに対応すべく全社員向けに「アンコンシャス・バイアス研修」を実施。フェイスブックやマイクロソフトなど名だたるIT企業も続いたことが、世間の関心を高めるきっかけになったと考えられる。
長年かけて数多くのリサーチが行われた無意識の偏見は、非常に奥が深く、企業のみならず、社会全体にも関わる重要なテーマだ。まさに今、日本でも本格的に取り組む時期に来てきいるのだと思う。