フリン氏は独断でロシア大使とやり取りをしていたのか?
ワシントン・ポスト紙は盗聴の詳細を書いていない。しかし、フリン氏と駐米大使の電話のあとのプーチン大統領と当時のトランプ次期大統領の対応を見ると、次のようなやり取りがあったと推測されるのが自然だ。
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「フリン氏、オバマ大統領の制裁はトランプ政権でも続くのか?」
「心配いりません、大使。その辺はトランプ大統領も考えていると思います。直ぐに制裁を解除するということは無理かもしれませんが、時期を見て解除します」
「そうか、それは安堵だ。本国に伝えよう。プーチン大統領も喜ばれるだろう」
「くれぐれも、対抗措置などはとらぬようお願いします。その点は私も次期大統領に伝えます」
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当然、これは違法な行為となる。ローガン法だ。1799年に制定されたこの法律は、米国の民間人が政府の許可なしに外交に関与することを禁じている。違反すれば訴追され、懲役刑の対象となる。
国務省で長年外交官を務め、今は大手企業の顧問をしている米国人に電話した。
「ローガン法違反って、これまで訴追されたケースはあるの?」
「フリン補佐官の問題か?私の経験ではないな。現実に民間人が関与することはなくはないが、それは政府の許可を得てというケースだ。ないと断言できないが、フリン氏が仮に訴追されれば極めて異例ということにはなると思う」
礼を言って、電話を切った。
ロシアとの関係改善を進めるトランプ大統領の危うさ
フリン氏は辞任したが、トランプ政権の狙い通りに幕引きとはならない様だ。15日の朝、NBCテレビのニュース番組でキャスターのマット・ロウアーが言った。
「オバマ政権がロシアに制裁すると表明した時、プーチン大統領は『対抗措置をとる』と明言した。そしてフリン氏とロシア大使との電話のやり取りがあった。そして制裁が科された。そうしたらプーチン大統領は『対抗措置をとらない』と言った。そして、当時は次期大統領だったトランプ大統領はプーチン大統領を賞賛し、『彼は素晴らしい』と。ここに、何の関連もないと思えるだろうか?」
同じ日、ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ大統領の選挙陣営のメンバーが頻繁にロシア政府と連絡を取り合っていたと報じた。フリン氏の問題は、トランプ政権全般を揺らす問題に発展する可能性が出てきている。
トランプ氏は、この問題とは別に、公私混同の問題が指摘されている。英語の逐語訳だと「利益相反」となるが、要は、大統領の職務と自分の行っているビジネスとの間で利益の調整が行われているとの指摘だ。実は、この問題が、ロシア問題とつながるのではないかというわけだ。
トランプ大統領の公私混同問題を取材しているワシントンDCの雑誌記者は次の様に話す。
「トランプ大統領はこれまで何度もビジネスで失敗しているし、正直なところ、何度も金銭的に行き詰っている。それでも、彼はなぜか生き残っている。それは、父親の支援だったのかもしれない。しかし、仮に、だよ・・・」
仮に、と断った上で彼が続けた。
「仮に、そこにロシアの企業からの融資があったとしたら、どうなる? それがプーチン大統領の息のかかった企業とか・・・」
すでに捜査は始まっていると見られている。問題はどこまで捜査が進むかだ。
トランプ大統領は、ヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に私的なメールを使っていた問題について捜査は終了したと言った後に、投票直前になって急に捜査の再開を明らかにするなどの対応が問題視されてきたFBIのジェームズ・コーミー長官を留任させた。また、その事実上の上司となる司法長官に自身の支持基盤に直結するセッション上院議員を起用。こうした布陣が、政権維持を目的としていることは間違いない。しかしこれらの対応が更に批判をまねくことになれば、それが逆の結果を生むこともある。
発足から一か月も経たないトランプ政権だが、先は見通せない。ワシントンDCで言われている言葉がある。
「この政権について一つ明確なことがある。それは、何一つ明確でないことだ」