13日のワシントンDCで、朝6時の電話で起こされた。まだ外は暗い。電話の主は長い付き合いの米公共放送NPRの記者だ。
「フリン補佐官か」
「フリンは完全に孤立している。誰も彼をかばわない。辞めざるをえないだろう」
政権発足から1か月にもならず、側近中の側近が辞任という異常な事態だという。礼を言って電話を切った。そして、日課になっているYahooニュースへの出稿の準備を始めた。
ロシア大使との会話
マイケル・フリン氏。58歳の元陸軍情報将校だ。トランプ大統領の側近中の側近である。しかし、政権発足前の彼のロシア政府との接触が問題視されてきていた。
フリン氏は政権発足前、頻繁にセルゲイ・キスリヤク駐米ロシア大使引と電話で話をしている。特に注目されたのは、オバマ政権がロシアに対して制裁を科す前日の電話だ。この制裁は、米国の大統領選挙に絡んで民主党本部などをハッキングしたとして科せられたもので、ロシアの外交官が大挙して国外退去となった他、これまで利用していた一部の施設の利用が禁止された。
これについてプーチン大統領は対抗措置をとらなかった。それについてトランプ大統領が「さすがだ」と賞賛している。
そこに、当時、トランプ政権への移行チームの主要メンバーだったフリン氏がロシア側とやり取りをしていた事実が明らかになったので、制裁について何かしらのやり取りがあったのではないかとの疑惑が浮上したわけだが、フリン氏はクリスマスの挨拶程度で、制裁について話していないとしてきた。また、当時、政権移行チームのトップだったペンス副大統領も、制裁について話をしていないと確認していると話していた。
ところが、ワシントン・ポスト紙が、情報機関及び捜査機関が盗聴記録から、制裁についてやり取りがあったことが確認されたと報じた(2月9日)。
これの衝撃が大きかったのは、情報に接することが可能な9人の確認をとったと報じているところで、常にマスコミの報道をツイートで批判するトランプ大統領も沈黙。フリン氏は一挙に孤立する事態となったのだ。
フリン氏の辞任
その状況を伝えてくれる公共放送記者からの電話だったのだが、その電話から1日も経たずにフリン氏が辞表を出す事態に。Yahooニュースに記事を出した6時間後のことだった。
14日、スクープを放ったワシントン・ポスト紙は続報を掲載。これは極めて興味深い内容だった。当時、司法長官代行だったサリー・イエーツが、この会話記録についてホワイトハウスに対処するよう伝えていたというのだ。それも、1月下旬だったという。イエーツ代行はFBIの情報を把握する立場にある。つまり、9日にワシントン・ポスト紙が報じた内容は既に政権内部で共有されていたということになる。
特に注目されるのは、ペンス副大統領ら政権幹部が公にフリン氏をかばったことから、イエーツ代行が、これは逆にロシア政府にフリン氏が脅迫されると判断した点だ。国家安全保障担当補佐官がロシア政府に脅迫されるという事態になれば、その影響は計り知れない。
ところがどうなったか。イエーツ代行は解任されるのである。理由は、イスラム教徒の入国を制限した大統領令に反対したからだったが、これで政権内にフリン氏の問題を追及する存在がいなくなったことは間違いない。そして、トランプ政権がその後にこの問題に対処した痕跡はない。