スタンフォード大学の経済学者ラジ・チェティと研究チームが12月9日に発表した調査結果は、過去数十年の国勢調査の結果と納税申告書のデータをまとめ、分析したもの。米国の30歳の労働者のうち、両親世代が30歳のときの収入を上回る稼ぎがある人は、およそ半数だという。1970年代には、この割合は92%だった。
こうした現象は、米国の全州でみられる。特に収入の減少が目立つのは、製造業が“消えた”中西部のミシガン州やイリノイ州などだ。また、男女別では特に男性の収入が大幅に減っている。かつては父親よりも多くを稼ぐことがほぼ保証されていた息子たちだが、30歳のときの父親よりも多くの生活費を稼ぐことができた30歳男性の割合は、2014年には41%だった。
チェティ教授は、「絶対移動(社会階層において親と異なる階級に移動した子の総量)が大きく減少していることが確認された。(11月の)大統領選の結果にみられるとおり、それが多くの米国民が持つ不安や失望感に大きく関係していると考えられる」と説明する。
研究者らは、アメリカン・ドリームが消えつつある大きな要因の一つは、所得格差の拡大だと指摘している。富裕層が資産を増やす一方で、中流層は取り残されてきた。親世代を上回る収入を得られる人を増やすには、より多くの人に利益をもたらす経済成長が実現されなければならない。
そして、もう一つの要因に挙げられるのが、経済成長の停滞だ。研究者らによれば、例えば米国が現在の所得分布で第二次世界大戦後の所得移動を再び実現するためには、長期にわたって国内総生産(GDP)の成長率を6%以上に維持する必要がある。約2%の経済成長にとどまる現状では、これは事実上、不可能なことだといえる。
フランス人経済学者トマ・ピケティをはじめとする経済学者らは12月2日、これとは別の調査結果を発表した。だが、その導き出した結論は、今回のチェティの研究と同じだった──「長年に及んだ過去の経済成長は、米国民の半数に利益をもたらすことができなかったのだ」