キャリア・教育

2016.09.05 08:30

国連の日本人ナンバー2が語る、「世界の不条理」に私が教わったこと

国連事務次長補/国連開発計画総裁補/危機対応局長 中満 泉(photo by Aaron Kotowski)


それから20年の歳月が流れた。旧ユーゴにいた頃と世界の環境がまったく変わったと、彼女は思う。「紛争がなかなか終わらなくなったんです」と言う。
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「紛争終結まで平均7年かかっています。終わっても、治安は非常に不安定な状態が長く続く。安定化を待っていたら、いつまでも開発援助に入れないのです。シリアで行っているように、紛争中に市民の生計を支援する方法を取らなければならない。例えば、砲弾で崩れた瓦礫の撤去は、現地の人を緊急雇用する。雇用の創出で、食料援助になるべく依存しない状況がつくれるし、瓦礫の除去により人道援助のトラックも入りやすくなります」

13年、シリアで中満のカナダ人の部下がアルカイダ系反政府武装組織に人質として拘束されるという事件があった。国連の交渉専門官がベイルートに入り、週末も夜もない緊張した生活が始まった。8カ月後、人質は、見張りの者たちが朝の礼拝に出かけた隙をついて、2時間走り続けて、政府軍の検問所で保護された。

20年前、中満はサラエボでも二度、部下が人質になり、自分たちで解放に向けた交渉を行った。だが、今のようにISに人質を売ったり、国連職員が殺害される恐れなど、考えられない時代だった。
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無力感を感じるほど、世界はより悪くなっている。旧ユーゴの仕事を終え、97年にスウェーデン人の外交官と結婚し、二人の娘を授かった。いま10代の娘たちが成長し、私がかつて志願したような紛争地に行くと言い出したら、昔、自分の母親がそうだったように黙って娘を送り出すことができるだろうか。

仕事は怖くないのか? そう問われると、アフガニスタンで出会ったカンダハールの州知事を思い出す。「3回ほど暗殺未遂に遭った」と知事は言い、オフィスの入り口を指さした。「タリバンが玄関を突破して、そこまで来た」。オフィスの手前で武装したセキュリティたちにねじ伏せられたという。

知事はカナダの大学教授で、あえて母国に帰国しなくてもいい地位にあった。

「どうして命を狙われるような仕事を?」中満はそう聞いた瞬間、それは自分に問われ続けた質問であることに気づいた。知事は表情だけで答えた。聞かなくてもわかるでしょ、と。

思えば、国籍も民族も関係なく、世界中で彼女はずっとこの知事のような人々と出会い、心のどこかで繋がっている感覚を得てきた。

「先週、エチオピアとウガンダに出張に行ってきたんですよ」と、中満は充実した表情で言う。両国の国連のトップは二人とも現地の女性で、「私の倍くらい大きな体の女性で、彼女たちから元気をもらった」と笑う。

中満は彼女たちと同じ時間を過ごし、こう言われたという。

「大変な状況だけど、人間は小さな可能性を見つけては、それを広げていく努力ができる。なんて素晴らしいことなんでしょうね」

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文=藤吉雅春

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