この施設の建設案が浮上したのは、2012年にスイスにある欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器によってヒッグス粒子が発見された直後のことだ。現在も計画は進行中で、2021年に建設が開始される予定だという。
プロジェクト費用は約60億ドル(約6680億円)とされるが、先進国で科学分野の国家予算が減少する中、その額の大きさが際立っている。しかも、最終的なコストが予算内に収まる保証はどこにもない。CERNの大型ハドロン衝突型加速器の建設費用は、当初の見積もりの3倍の90億ドルに膨れ上がった。
全周50キロに及ぶ超大型施設
中国版の大型粒子加速器は「ヒッグス粒子工場」と称され、CERNを大きく上回る数百万個のヒッグス粒子を作ることが期待されている(スイスとフランスの国境の地下にあるCERNの加速器も今後10年間で設備を拡張し、現状の10倍の量のヒッグス粒子を生成できるようになる予定だ)。
昨年出版された、ハーバード大学教授の丘成桐(Shing-Tung Yau)と科学系ライターのスティーブ・ナディスの共著「The Great Wall to the Great Collider: China and the Quest to Uncover the Inner Workings of the Universe(万里の長城から大型粒子加速器へ)」によると、中国の加速器が建設されれば、「これまで手が届かなかった領域にまでエネルギーレベルを高めることが可能になる」という。
宇宙の最も基本的な構成要素であると言われるヒッグス粒子は「神の粒子」と呼ばれる。粒子加速器は、陽子同士を光速近くまで加速して正面衝突させることでヒッグス粒子を作りだす。現地の報道によると、北京にある中国科学院高能物理研究所(IHEP)が計画中の加速器は、全周が50キロにも及ぶという(CERNの大型ハドロン衝突型加速器は27キロ)。
中国政府はまだ建設計画を承認していないが、IHEP所長の王貽芳(Wang Yifang)はゴーサインが出ることに自信を持っている。王は、加速器の建設に適した場所として河北省秦皇島市を挙げる。秦皇島市は万里の長城が海にぶつかる場所として有名な観光地だ。
「これは世界による世界のための加速器であり、中国だけのものではない」と王は述べ、世界中の物理学者が中国を訪問して計画を支援していることを明らかにした。一方で、IHEPが所属する中国科学院の一部のメンバーからは加速器の建設に反対する声が挙がっている。彼らは、すぐに効果が得られる実用的なプロジェクトに予算を充当するべきだと主張している。
「加速器の建設にこれほど多くの金額を投じるべきだろうか」と中国科学院に所属する物理学者であるCao Zexianは疑問を投げかける。「それよりも先にコンピュータチップやボールペンのペン先の性能を向上させる方が賢明だ」