だが、それは元経営コンサルタントで長年にわたり、データ分析を仕事としてきたサンドバーグが示したデータのためではない。多くの人たちがこの講演について「素晴らしかった」「感情を揺さぶられた」「感動的だった」とインターネット上に投稿しているが、それもデータのおかげではない。
事実が情報を伝え、データが知識を与える一方で、人の感情を引き出すことができるのは人間のストーリーだけだ。2,618ワードで構成されたサンドバーグのスピーチの48%は、彼女自身の経験と、自らに降りかかった悲劇、その克服に関する内容だった。
聴く人の心を動かす物語
サンドバーグはまず、バークレー校の卒業生であるロザリンド・ナスという女性について語った。機会を求めて同校に進学したこの人は、「住んでいたブルックリンの下宿屋で、床掃除をしながら育った。家計を助けるため、両親に言われて高校を中退したが、教師の一人が両親を説得してくれたおかげで学校に戻り、そして1937年、この場所で卒業証書を受け取った」という。
こう述べて少し間を置いた後、サンドバーグがそれは自分の祖母の話であると打ち明けると、会場からは聴衆がのんだ息の音が聞こえた。
次にサンドバーグは、「回復力」について語った。避けようのない悲劇と挫折に直面したとき、回復力とは何であり、その力はどうすれば身に付け、伸ばすことができるのか──「公の場で、このことを話すのは初めてです」
そう切り出したサンドバーグは、次のように続けたーー
「1年と13日前、夫のデイブを失いました。その死は突然で、予期しないものでした。友人の50歳の誕生日を祝うためメキシコを訪れていました。私が昼寝をしている間、夫は運動するために出かけました。その後に起きたことは、思いも寄らぬことでした──ジムに足を踏み入れると、その床に夫が横たわっていました」
「それから何か月もの間、私は繰り返し悲しみの深い霧にのみこまれ、心臓も肺も空虚さでいっぱいになり、何も考えることができず、呼吸すらできないほどでした」そして、自分は夫の死によって多くの意味で大きく変わったとして、次のように述べた。
「人生(の波)にのみこまれても、底を蹴って水面から顔を出し、また呼吸し始めることはできると学びました…楽しむこと、目的を持つことを選ぶことができるのです」
「私たち自身の中にある光が消えることはありません」