米国でミノーグの代理人を務める弁護士によると、異議申立書はジェンナーに登録商標が認められない理由として、ミノーグの「優先的地位」を主張すると共に、「混同のおそれ」、「不鮮明化による稀釈化」、「汚染による稀釈化」を挙げた。
教育・娯楽分野で、あるいは録音(音楽、ビデオクリップ、コンサート映像など)や携帯電話アクセサリーなどの販売において、「カイリー」をトレードマークにしてきたのは、確かにミノーグだ。ジェンナーが商標登録を希望している分野のすべてでこうした状況を築いているわけではないが、圧倒的に広く知られているのはミノーグであり、この闘いは厳しいものになるかもしれない。
新旧「カイリー」対決か──
ジェンナーはカーダシアン家の全員をスターにした一家の中心的な存在、モデルのキム・カーダシアンの妹。ほかの姉妹がテレビ番組への出演を主な活動にしている一方で、ジェンナーは一流ブランドのモデルを務めるほか、本の出版やネイルポリッシュのコレクションの立ち上げ、服のデザインなどを行っている。
ジェンナーとミノーグはいずれも、それぞれの活動する分野でトップクラスの収入を誇る訳ではない。だが、同様に自身の名前をブランド化していると言ってよい。そして、その名には数百万ドルの価値がある。
ミノーグは、世界各地のどの大規模会場でも入場券を完売できる高い集客力を誇り、ツアーを行えば数百万ドルを稼ぐことができる。アルバムなどの売上高は、米国ではそれほどではないものの、その他の地域では必ずヒットチャートに入る。
ジェンナーにとって唯一有利な点は、米国では長年にわたってミノーグのヒット曲がないことから、恐らく若者たちの間では知名度が低いことだ。最後に米国でヒットしたミノーグの曲は、2001年に全米シングル・チャートで7位に入った『Can’t Get You Out Of My Head(熱く胸を焦がして)』。そのほか米国では1989年に、カバー曲『The Loco-Motion(ロコモーション)』がトップ10入りしただけだ。ただし、10代の若者たちがミノーグとそのポップミュージックへの影響力を知らなくても、判事はよく知っているはずだ。
しかし、マドンナやアデル、シェールなどと異なり、ミノーグはこれまで一貫して名字なしの芸名で活動してきた訳ではない。自分こそが「カイリー」だと法的に主張することはもちろんできるが、世界中の誰もが彼女を知っていると証明することは難しいだろう──正直なところ、知らない人も多いのだから。