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フォーブス ジャパン編集部 編集者

       

「NEW CONCEPT採集『スモールメリット』―EU期待の星、エストニアに学べ―」(アカデミーヒルズ六本木ライブラリー)セッションの様子。写真左より、倉成英俊氏、ナージャ・キリーロバ氏、藤吉雅春(弊誌)、トーマス・モール氏、山口功作氏。

「日本の方々も、『ゼロ・ビューロクラシー』の社会に住みたいと思いませんか?」トーマス・モール駐日エストニア共和国大使館領事は壇上から語りかけた。

「ビューロクラシー」とは、官僚主義や、官僚式の煩雑な手続きのことをいう。政府の約170のシステムを相互に接続し、3,000以上のサービスを提供。世界に先駆けて最先端のオープンガバメントを実現し、e-ID Card(電子式の国民IDカード)の普及率が8割を超えるEUの小国、エストニア。「スタートアップ・ガバメント」とモール氏自らが呼ぶように、人口わずか約130万、GDP約250億ドルの国が、1991年旧ソ連からの独立後わずか20数年でスカイプを生み出し、IT国家のモデルケースになり得たのはなぜなのか。

フォーブス ジャパンは1月28日、電通総研Bチーム、アカデミーヒルズライブラリーと合同でイベントを開催。会場のアカデミーヒルズ六本木ライブラリーには、アカデミーヒルズ会員の他、一般応募からの当選者を含む約120名が来場。人気連載「電数総研BチームのNEW CONCEPT採集」の第1回目に取り上げた「スモールメリット」の考え方をさらに発展、深めるべく、エストニアからトーマス・モール氏(エストニア共和国大使館一等書記官/領事)、山口功作氏(エンタープライズ・エストニア日本支局長)を招き、電通総研Bチームからはクリエイティブディレクターの倉成英俊氏とコピーライターのナージャ・キリーロバ氏、フォーブス ジャパンからは副編集長/シニアライターの藤吉雅春が登壇し、エストニアに日本の未来のヒントを探るべく、プレゼンテーションとパネルディスカッションを行った。

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Forbes JAPAN No.13 2015年8月号 P88「電通総研BチームのNEW CONCEPT採集」第1回より。
倉成英俊=文 尾黒ケンジ=イラストレーション


冒頭では、連載第1回目の執筆者倉成英俊氏が、記事で考察した「スモールメリット」について紹介。氏が最初にエストニアに興味を持ったのは、1991年、ソ連から独立時、歌で行ったという無血革命「singing revolution」の存在を知ったからだ。エストニア訪問時に出会った建築家夫妻の「私たちは国をゼロから作ったんだ」というカッコいい言葉。そして、新しい国を形づくるまでのスピードの早さ。倉成氏の考察は、そこから日本や日本企業へと移る。

生産性や経済効率を主眼においた「スケールメリット」の「大」に対して、コンセンサス、リスク、スピード、クオリティコントロールなど、様々な面での「小」の利点があるのではないか。紙から小枝へ、そして薪へ。燃えうつり、大きくなるたき火のように、スケールとスモールのハイブリッドによって、革新は生み出せるのではないか―—。

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「エストニアのe-governmentは、国内外問わず新しい技術を導入し、さらに進化中です」。トーマス・モール氏(左)、山口功作氏(右)。


倉成氏のコンセプトの説明を受ける形で、トーマス・モール氏が、エストニアの「現在」について語ってくれた。

「(倉成氏の『スモールメリット』のコンセプトは)非常に面白い視点だった。“メリット”は人それぞれにとって、違うため、多角的なコンセプトだと思うが、ひとつ言えるのは、技術革新のスピードが著しい現代において、世界中が、時代の変化に、テクノロジーをもって対応しようとしている。そこでは、どのような準備をしているかが重要になってきており、国のサイズや、企業の大きさの重要性は減っているのではないか」。

エストニアでは現在、選挙、会社登記、税申告など行政に関わる市民生活の多くをオンラインで、煩雑な手続きなく行うことができる。また、非エストニア在住の外国人が政府の発行するIDカードを取得でき、銀行口座の開設や起業、オンラインでの企業経営も可能となる電子居住「e-resident」サービスなど、諸外国から注目を集める最新のデジタルソサイエティが存在する。

「個人と政府のコミュニケーションをなめらかにし、時間とコストを省くために、国内外の優れた技術を導入し、ユーザー目線で様々な改良を今も行っています」(モール氏)。「スタートアップ・ガバメント」とモール氏が表現するように、今もそのシステムは革新を続けている。「目標は『ゼロ・ビューロクラシー』(官僚式手続きの撤廃)です。『サービス』を『サービス』と国民が感じないような、シームレス(継ぎ目のない)で快適な生活を送ってもらいたいと思っています」(モール氏)。

また、エストニアが旧ソ連からの独立後、驚異的なスピードでIT立国としての地位を確立した理由については、数学的な能力を重要視した教育によって、論理的思考力が高まり、スピード感のある合意形成が可能な土壌になったのではないか、とモール氏は語った。

エストニア投資庁、ならびにエストニア政府観光局を所管するエンタープライズ・エストニアの日本支局長を務める山口功作氏は、エストニアのIT立国としての成功の理由の1つとして、「国のエンジニアへの信頼」が大きかったのではないか、と指摘。

「トーマス・ヘンドリック・イルベス大統領(2006年〜現職)は、恐らく世界初となる『ソースコードの書ける大統領』。政治がエンジニアの意見を重用することは稀だと思うが、そういう意味でラッキーだったのではないか」と語った。また、エストニアの教育について、「旧ソ連から独立直後は、英語が話せる人も多くなかった。よく、日本を含め国外のメディアが、IT人材育成の参考にと、エストニアのプログラミング教育の視察に来られます。しかし、エストニアの数学を重視した教育は、IT人材育成のためではなく、論理的思考を育てるためなのです」

モール、山口両氏のエストニアの教育についての話を受け、「プログラミング教育が、プログラミング自体が目的ではない、という話でしたが、拙著『福井モデル』(文藝春秋)でも取り上げた、北陸の教育と共通するところが見えました。コンパクトシティでOECDから世界のベスト5と称賛される富山市、オープンデータで注目の福井県も、地域住民の合意形成の早さが特徴で、その背景には論理的思考を柱とする教育があります。私は福井市内の中学校の授業を見学しましたが、こんな授業を受けたかったと思うほど、論理的な思考を学ぶことができるものでした。エストニアの発展の裏に、未来をつくるための教育がある点は大きな特徴だと思います」(弊誌藤吉)

ソ連(当時)、フランス、日本など、計5カ国で教育を受けた、という希少な経験を持ち、コピーライターとして国際的に評価されるキリーロバ氏は、「日本での合意形成は、長い時間をかけて皆で意見を擦り合わせ、結局つまらないものになってしまうことが多い。1990年代にエストニア国内の全小学校にインターネットを導入し、数学的論理思考を高めた結果、意思決定のスピードが早まったというのは、とても印象的です」など、さまざまな意見が出された。

1時間半にわたる活気のある議論の締めくくりには、来場者から「エストニアの10年後のビジョンは?」という質問が出され、「GDPではフィンランドやスウェーデンなど、近隣のスカンジナビア諸国にまだ及ばないが、IT技術では、世界に輸出できるものが多くある。方法は様々にあるが、『インターネットを使って国民を幸せにする』ことが、エストニアのビジョンだと思っている」とモール氏は語った。

日本がエストニアに学ぶことは、まだまだ多くありそうだ。

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「NEW CONCEPT採集『スモールメリット』―EU期待の星、エストニアに学べ―」(アカデミーヒルズ六本木ライブラリー)会場の様子。

登壇した倉成英俊氏、ナージャ・キリーロバ氏も執筆!
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文=岩坪文子

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