「黒い金」ランキング!甘利氏の辞任からロッキード事件まで「疑惑の相場40年史」

甘利 明 前経済再生担当大臣(The Asahi Shimbun/Getty Images)

「首狩り族」。10年ほど前、私が「週刊文春」編集部にいた頃に、同僚記者がやや疲れた顔で自虐的に使っていた言葉である。

公権力を利用してカネを得たり、不正を行う者を追及して、歪んだ仕組みや悪習慣を明らかにする。そうして辞任に追い込む、つまり、「クビを獲る」から「首狩り族」。

疑惑追及の金字塔として有名なものに、首相を退陣させた立花隆氏の「田中角栄研究~その金脈と人脈」(文藝春秋1974年11月号)や、朝日新聞のリクルート事件報道がある。調査報道の王道だが、同僚記者が「首狩り族」と自嘲気味に言うようになったのは、理由がある。時代とともに、徒労感が増すようになったからだ。

以下は、ロッキード事件から甘利明氏の経済財政・再生相辞任までの40年を、「疑惑のカネ」の金額順にランキング化してみた。この一覧をじっくりご覧いただきたい。気づかされることがあるはずだ。

「黒い金」ランキングトップ10

(以下左から、政治家名、事件名、贈賄をした産業、金額 → 判決や結末)

1.田中角栄(1976年 ロッキード事件、航空) 
5億円 → 本人否認のまま、懲役4年、追徴金5億円の有罪判決

1.金丸信(1992年 東京佐川急便事件、運輸)
5億円 運輸 政治資金規正法違反で罰金20万円。世論の批判が高まり、議員辞職

3.橋本龍太郎ら橋本派幹部(2004年 日歯連不正献金疑惑、歯科医の政治団体)
1億円(小切手) → 政治資金規正法違反で、会計責任者らが逮捕

3.石井亨(1993年 ゼネコン汚職事件、建設業)
1億円 → 仙台市長時に複数の大手ゼネコンから賄賂。有罪、服役

5.竹内藤男(1993年 ゼネコン汚職事件、建設業)
9,500万円 → ゼネコン4社から賄賂。逮捕起訴されたが、病気によって公判停止

6.阿部文男(1991年 共和汚職事件、鉄骨加工)
9,000万円 → 有罪判決を受けたが、病気のため刑の執行は停止

7.田代富士男(1988年 砂利船汚職事件、業界団体)
7,000万円 → 執行猶予つき有罪判決。本人は議員辞職

8.岡光序治(1996年 特別養護老人ホーム汚職、福祉)
6,000万円 → 補助金の交付で利益供与。逮捕、服役後、起業

9.村上正邦(2000年 KSD事件、財団法人)
5,000万円 → 自民党離党議員辞職後に逮捕。公判で上告したものの、棄却、服役

10.小沢一郎(2009年 西松建設事件、建設業)
3,100万円 → 秘書が政治資金規正法違反で逮捕

番外編:1988年リクルート事件(人材)
逮捕された政治家は藤波孝生元官房長官ら2名だが、90人以上の議員に未公開株が配られた。譲渡された株の売却益は計6億円。中曽根康弘、宮澤喜一、安倍晋太郎、森喜朗、加藤紘一など大物議員が続々登場。「名義を貸しただけ」「秘書がやった」という言い訳が話題に。売却益で1億円以上を得た議員もいるという。


意外にも、メディアの話題を独占した鈴木宗男事件(2002年)や、「防衛省の天皇」と呼ばれた事務次官・守屋武昌事件(2007年)など記憶に残る最近の事件が、ランクに入っていない。

そう、時代を追うごとに「疑惑のカネ」の額が小さくなっているのだ。もちろん、これは社会の健全化であり、好ましいことだ。世論の厳しい目や法の改正により、政治資金の透明化が進んだことが作用している。

もう一つ、ランキングから見えてくるのは、政界や業界に睨みをきかす「ドン」がいなくなったことだ。顔役であるドンのもとにカネが集まり、子分に分配される“黒いカネの一極集中”がなくなっている。

2009年の西松建設事件では、小沢一郎氏への3100万円が突出しているが、他に西松側から献金を受けた政治家17人のうち14人が1,000万円以下。「薄く広く」という献金方法で、相場が下がっている。疑惑の「小粒化」と言えるが、甘利氏の辞任からこう言い換えることもできる。巨大な公権力を使っているわりには、やることが「せこく」なった、と。

甘利氏は建設業者から大臣室で50万円の現金を受け取り、事務所で受け取った50万円と合わせて、計100万円を授受。大臣までをも動かす大掛かりな案件かというと、そうではない。実際の口利きの中身は、道路建設をめぐる業者とUR(都市再生機構)の補償交渉である。こんなことにTPP交渉で忙しい大臣がのこのこと現れるのが驚きである。やっていることはまるで御用聞き。しかも悪質なのは、口を利いてやる素振りを見せて、秘書は現金や接待をたかり続けていた点だ。

URを所轄する国土交通省の局長に渡すカネが必要だといって、賄賂を用意させ、しかも局長に賄賂は渡っていないという。つまり、誰かがネコババしたのだろう。さらに、秘書はキャバクラやフィリピンパブでの接待を業者にたかり続けた。業者の鼻先に口利きというニンジンをぶら下げて、小銭を搾り取る。「やるやる詐欺」みたいな話である。

疑惑のカネは時代を追うごとに低額化しているが、中身が意地汚くなっていると言えるのではないだろうか。もっとみっともないのは、「罠にはめられた」という論調が、甘利氏本人の口をはじめ、自民党からも出てきたことだ。「被害者だ」と言いたいのだろうが、週刊文春内部でいきさつを聞くと、当たり前だが「罠」ではない。

「今回取材した記者は、告発した建設会社の総務担当者と過去に会ったことがあり、別件で話を聞きに行った。すると、業者は政治家の名前を伏せながら、政治案件の仕事をしていると匂わせたのです。記者が詳細を聞こうと質問を重ねるうちに、できすぎた話に思えて、話は信用できないと判断したのです」(週刊文春関係者)

話を信じてもらえなかった業者は、「ちゃんとアポも取っている」と、手帳を見せながら、事実だと主張。手帳に視線を落とすと、確かに甘利氏の秘書との約束が記されている。そこで記者は、この業者に内緒で、アポイントがある場所に本当に業者がやって来るか、こっそりと確かめに行ったという。そこから記者たちの追跡が始まったのである。

週刊文春が、追跡、裏取り、業者への説得にかけた時間は、数ヶ月に及んだという。「カネを渡した方も罪に問われる可能性があり、罠にかけるメリットはなく、実名告発は勇気がある行為」と、取材班の一人は言う。

不正や悪事は時代を映す鏡。「巨悪」は消え、疑惑のカネは小さくなれど、しかし、口八丁でカネをむしり取ろうとする人はいつの時代にも登場する、ということか。不正に程度の差などないが、調査する側に徒労感が残る、せこい疑惑ではないだろうか。

文=藤吉雅春

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