同社の広報担当、ニール・マッカーシーは撤退の発表後にAP通信に対し、「日本は先進国の中で最も自動車市場が閉ざされた国だ。新車の年間販売台数のうち、輸入車が占める割合は6%にも満たない」と語った。前段の部分は、米自動車貿易政策評議会(AAPC)の受け売りだ。正しい主張であると証明する根拠はない。さらに、後段は独創性に富んだ「統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門(How to lie with statistics)」からの借用とみられる。
日本の自動車販売台数のうち、輸入車が占める割合が10%前後 (軽自動車を含めれば約6.5%)であることは確かだ。だが、フォードが誰にも気づいてほしくないのは、この数字は日本の輸入車市場に活気があることを明示しているという事実だ。この割合は欧州では約4%、中国では同5%(中国自動車工業会のデータによる)であり、日本よりずっと低い。しかし、フォードが欧州や中国の自動車市場について不平を言うのは聞いたことがない。これら各国で自社が握るシェアがその理由だろう。
もう一つ、フォードがあなたに知られたくないのは、自社が日本市場での競争において、欧州勢に負けたという事実だ。日本が昨年中に輸入した30万台超の外国製の自動車のうち、80%以上は欧州ブランドの車だった。米国製は、わずか4%にとどまっている。国内に10社を超える自動車メーカーを擁する日本は、競争の激しい市場だ。フォードをはじめとする米国メーカーには、やる気がないのだろうと思わされる側面もある。輸入されるフォード車の一部は、ハンドルが逆側に付いたままだ。フォード車の販売台数はGMと合わせても、米国メーカーの中で人気があるFCAのジープの半分にも及ばない。こうした状況下で、フォードが今まで日本市場から撤退せずにいられたのは、奇跡といえるだろう。
インドネシア市場は「あきらめた」?
インドネシア市場からの撤退は、完全な「降伏」だ。あるアナリストは、「米自動車産業の世界的な敗北に向けての新たな一歩だ」と述べている。
日本市場はすでに飽和状態だ。そして人口減少と高齢化により、下降線をたどっている。だが、インドネシアはそれとは正反対だ。人口は日本のおよそ2倍。自動車市場は成長し始めたばかりだ。人口1,000人当たりの自動車保有台数が日本で約600台なのに対し、インドネシアは約50台。10年ほど前から急成長を遂げてきた同国の自動車市場は2014年、年間販売台数が過去最高を記録した。このことは、インドネシアが先見の明と少しばかりの忍耐力を持った自動車メーカーに対し、長期的な利益を約束する国だという事実を否定しないはずだ。
だが、フォードにとっての問題は、インドネシアは日本以上に、日本メーカーが強い市場だということだ。日本メーカーのシェアは2015年、96.5%にまで達した。同年1~11月までのインドネシアでのフォード車の販売台数は、5,000にも満たなかった。一方で日本車の販売台数は、100万台近くを記録している。