ビジネス

2016.02.17

企業成長の鍵を握る「水リスク」対策

John Lund / gettyimages

世界の淡水資源の需給は逼迫している。世界的な異常気象もあり供給は不安定極まりない。将来の「水戦争」を危惧する声さえあるなか、水不要の製品開発を目指す企業も出始めた。

Tシャツ1枚に2,900リットル。皮革1kgに1万7,000リットル。一見水とは関係ないように思われるプロダクツでも製造過程では大量の水を使う。なかでも食品・飲料関係はサプライヤーの水使用量が多い。ファストフード店でのコーヒー1杯は約126mlだが、原料である豆の栽培には水132リットルが使われる。ハンバーガーひとつつくるにも、バンズをつくるには小麦を育てなくてならないし、牛を育てるにも大量の水を使う。牛が飲む水以外に、飼料を育てるにも水を使うからだ。その総計はハンバーガーひとつに対して2,400リットルという途方もない量になる。

これらはほとんど海外の農場で生産されており、そこで干ばつが起きると原材料が高騰する、あるいは手に入らなくなる。水リスクを認識しているという日本企業でも、サプライチェーンでの水管理はまだまだというのが現状である。

日本企業の主な輸入先国としては、米国が圧倒的に多く、オーストラリア、中国と続く。これらの国々はいずれも水不足の問題を抱え、たとえば米カリフォルニア州で降水量が激減し、記録的な干ばつ状態になってから4年になる。すでに果樹園を経営する農家や牛を放牧する農家の廃業も数多く出ており、ワインや牛肉が高騰し始めている。ブラウン州知事は、「これから先、気候変動がもたらす影響が米国全体に及ぶことになることを承知しておく必要がある」と語っている。

経済協力開発機構(OECD)予測では2000年から50年にかけ、淡水需要は50%以上の増加が見込まれる。すでに新興国や途上国の一部と先進国の一部では淡水資源の需給が逼迫しており、気候変動が降雨パターンに及ぼす影響と淡水の供給に与える影響を考慮すれば、淡水の需給ギャップの将来的な拡大を抑えることは困難だ。

人口増加や経済成長など消費者の嗜好や消費パターンの変化などにより、世界における淡水需要は将来的に大きく増加することが見込まれるが、気候変動の影響により淡水の供給はさらに不安定になる。

経済活動が水によってますます大きな制約を受けることが予想されるなか、日本企業も対応を迫られている。サプライチェーンの顧客側の水リスクを低減させようと、花王はすすぐ必要のないシャンプーを開発し、TOTOが節水トイレ・無水トイレの開発に力を注ぐ。水不足の国や地域で自社商品を展開するにはこうした努力は必要不可欠だ。

ただし、原材料生産にかかる水リスクを低減させようという日本企業の動きはまだ鈍い。安定的な調達のためサプライチェーン上流で水リスク把握が急務だ。

文=橋本淳司(水ジャーナリスト)

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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