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フォーブス ジャパン編集部 編集者

photograph by Tadashi Okochi

近年、激しさを増す集中豪雨は、都市化した国土を襲い、各地に甚大な被害をもたらしている。住宅が密集する都市部では、どのような治水システムが有効なのか。



集中豪雨
2014年8月に死者74人を出した広島市の集中豪雨や、15年9月に6,900棟に被害を及ぼした鬼怒川堤防決壊など、大きな水害が相次いだ。こうした中でいま、治水への関心が高まっている。



東京と洪水—東京都民が水害に悩んでいるイメージは、あまりないかもしれない。だが、実際には毎年、集中豪雨に見舞われているし、時には川の水が氾濫して浸水の被害が出ることもある。

これは近年、注目されているゲリラ豪雨だけが原因ではない。特に都市化が進んだ東京は地表がコンクリートで覆われており、土地の浸透力が失われている。そのためゲリラ豪雨により短時間で河川の水位が上がる都市型水害が増えているのだ。

東京都を半周する環七通りの地下約40mに、全長約4.5km、直径約12.5m、25mプール約1,800杯分の貯水量を誇る巨大なトンネルがある。都内有数の水害多発地帯だった神田川流域の被害を防ぐため、1988年から2007年にかけてつくられた。これは、東京都建設局が約1,000億円を投じた巨大プロジェクト「神田川・環状七号線地下調節池」。都市型水害の被害を軽減するため、河川が氾濫する前に地下に取水・貯留する仕組みだ。

93年に発生した台風11号は、4,706戸に浸水被害をもたらした。だが、04年の同規模の台風では、浸水被害はわずか46戸に止まっている。地下調節池に河川水の一部を取り込んだことで、被害を最小限に抑えたかたちだ。東京都は現在、古川流域(港区、渋谷区)や白子川流域(練馬区)に2カ所、計6.5kmの地下調節池を建設中で、全国では神奈川県や大阪府なども地下調節池を運用している。

本来、治水の基本は川幅を広げ、川底を深くすることによって、河川の能力そのものを高める「護岸整備」だといわれる。しかし、護岸整備は土地の取得や工事に時間がかかるため、調節池の建設と同時進行で行われているのが現状だ。

河川自体の能力を高めることと、限界を超える水を別の場所へと導くこと。この発想は、戦国時代にさかのぼる。戦国最強を誇った武田信玄は、戦国の動乱の最中、20年の歳月をかけて大規模な治水工事を行った。それが「信玄堤」だ。甲州盆地を流れる暴れ川の流れを固定し、様々な石組みや仕組みを築いて川の勢いを削ぎながら、川沿いに1,800m以上の「霞堤」を築いた。

霞堤とは、堤防に切れ目を入れて、あらかじめつくられた遊水地に水を溢れ出させることで、下流への水量を減らす仕組みをいう。重機もコンクリートもない当時、これが最先端の治水システムだったのだ。そして、信玄によるこの治水法は、「甲州流防河法」として全国に普及していった。

現在の治水システムと「信玄堤」を見比べると、基本的な技術思想が一致していることが分かる。最先端の治水システムは、古来の叡智の上に存在しているのだ。

山野一十 = 文

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