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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

photograph by Hironobu Sato

東京・有明にある大塚家具本社の広大なショールームを社長の大塚久美子と一緒に歩いていると、テーブルを見ていたカップルが「あっ」と声をあげた。
「テレビに出ていた人だ」

視線に気づいた大塚が、「いらっしゃいませ」と会釈する。

経営方針を巡る一連の報道ですっかり有名になった大塚家具だが、いま、「新たに生まれ変わるため」と、創業以来初めて、全館全品の売り尽くしを行っている。「20年ほど前にここをつくったときは、品揃えもオペレーションも世界でも最も進んだショールームでした。それを一からつくり直す大プロジェクトです」と、大塚は言う。だが、彼女の話す大塚家具の刷新から気づかされるのは、実は日本人の生活史ともいえる、大きな変化だろう。「衣食住の中で、日本の衣と食は世界一といえるほどレベルが高いですよね。ファッション雑誌やグルメ番組も多いし、TPOを踏まえた装いの知識も豊富です。ワンコインでも質が高い食事ができる。これだけ徹底してこだわる国は他にないと思います。でも、住むことや自分らしい暮らしについては、未開拓の分野です。地価が上がっている時代は“暮らす”というより資産価値という側面に重きを置かれていたと思うんです」

1979年、津田沼店をオープンしたとき、家具をモノとして販売する従来型の店ではなく、部屋全体を見せて、暮らしのスタイルを提案するトータル・コーディネイトを打ち出した。しかし、当時の消費者は、まだ「テーブルを買いに来た」「タンスを買いに来た」という意識で、時代が追いつかなかった。しかし「ここ10年でずいぶん意識が高まってきました」と彼女は言う。

まず、外的な環境の変化である。かつてウサギ小屋と呼ばれた日本の住宅は、世帯人数の減少により、一人あたりのスペースが増えている。そして住む側の世代交代が進んだ。資産として家を持つだけでなく、ライフスタイル、つまり生き方をどう表現するかに、ようやく関心が持たれるようになった。インテリアのトータル・コーディネイトも、人間工学や心理学、カラーコーディネイトに建築学に近い発想まで、さまざまな要素で構築されるようになったのだ。

大塚があげるポイントは「快適性」だ。「食べ物が体をつくるように、住まいの快適さで考え方や行動パターンは変わるのです。例えば、せっかく子ども部屋に立派な勉強机を置いても、子どもはなかなか勉強しない。小さいうちはお母さんの近くにいる方が気持ちが落ち着くので、結局、リビングで宿題をするし、その方が集中して勉強します。となれば、居間で勉強できるようなプランニングが求められるでしょう。

あるいは、帰宅して仕事をしようと思っても、書斎に快適な椅子がなければ、もっとも居心地の良い椅子があるところに自然と体は移ってしまう。仕事をしなきゃと思っても、体がリビングのソファから動こうとしないのです。

インテリアやレイアウトは見た目だけではなく、暮らし方にあった使い勝手や心地良さが、実は重要なんです」

新築住宅を増やすという“量”の国家政策から、“質”への転換。そのタイミングがまさに、いまなのだろう。

だが、どんな部屋をつくり、家具を揃えればいいのか、消費者にはわからない。その結果、「ベストではないかもしれないけれど、何となく手頃な価格」という消極的な選択ができる店が台頭した。

それに対し「家具からつくる家づくりがあってもいいじゃないですか」と、大塚は提案する。間取り、スイッチやコンセントの位置、床や壁紙の色が決まってから家具を買おうとすると、選択肢は狭まる。「家という箱や枠組みから住まいを考えるのではなく、暮らしをイメージしやすい家具から家づくりを考える。コストは変わらないのだから、プロセスを変えることだってできるはずです」

衣や食より高い買い物なのに、あまり重きを置かれなかった暮らしづくり。新たなショールームでは客に気づきを提供できるようにして、その人に合った暮らしを提案していきたいという。「家具や暮らしの話を始めたら、本当に止まらないんですよ」と、大塚は照れ笑いを浮かべる。

やはり、根っからの家具屋の娘であった。

おおつか・くみこ◎1968年、埼玉県生まれ。91年一橋大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行し、融資業務、国際広報などを担当した。94年大塚家具入社。96年取締役、コンサルティング会社起業を経て、2009年社長に就任。14年7月社長解任。15年1月社長に復帰。

藤吉雅春 = 文

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