NetflixがSpinnakerをリリース グーグルやマイクロソフトとマルチクラウドを実現

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オンライン動画大手のNetflixがSpinnakerというツールをリリースした。Netflixによると「ソフトウェアの変更を速く、確実することを可能にするオープンソースのマルチクラウド継続的デリバリー(Continuous Delivery)プラットフォーム」なのだという。Spinnaker開発のためにNetflixはこの一年でグーグル、マイクロソフト、EMC、そしてPivotalとパートナーシップを結び、GitHub上にプラットフォームコードを公開するに至った。
Spinnakerは11月の中旬現在Amazon Web Service (AWS)、Google Cloud Platform、Pivotal Cloud Foundryへのデプロイをサポート、マイクロソフトのAzureについても「鋭意作業中」であるとしている。

NetflixはAWSの看板顧客のような存在である。クラウドで事業展開する有名企業の事例が必要な時によく取り上げられてきたし、自社のデータセンターよりも、AWSを好んで利用していることでも有名だった。また、AWSに障害が発生した際、真っ先に名前が挙がるのも、受ける影響が消費者にもわかりやすいNetflixだった。

しかし、Netflixが全てをAWSに依存するのは、自らリスクを作り出す行為である。サプライチェーンの中で、重要部品をシングルソースするのは、収益をリスクに晒すことになるが、時としてそれだけの価値があることもある。企業によっては、主たるサプライヤーと緊密なパートナーシップを築くことで、サプライヤー自体のリスクマネジメントに関与して、リスクを軽減する。他方では、ポートフォリオ的なアプローチをとり、マルチソースすることでリスクを軽減する企業もある。サプライヤーの1社に問題が発生した場合、他の選択肢を持つ形だ。

今Netflixがしようとしているのは、後者のようだ。AWSは大企業で、事業がNetflixに依存しているわけではない。例えば、トヨタ自動車と主たるサプライヤーの関係とは異なる。力関係で言えば、AWSがNetflixを必要としている以上に、NetflixがAWSを必要としている。

マルチソーシングすることで、Netflixは自社サービスの弾力性を増し、更にAWSの障害による打撃を最小限に留められるようになることにも期待している。ここで非常におもしろいのは、Spinnakerの開発により、Netflixは自社に不可欠なパーツを複数のサプライヤーからソーシングすることができるようになったということだ。こうなると、AWSには競争圧力がかかることになる。なぜなら、Netflixはクラウドサービスをコモディティー的に扱うことができるようになり、何かあった時には単純に別のサービスにワークロードを移せばよいことになるからだ。これは、現在のクラウドの世界では非常に難しいとされていることで、よくイーグルスの名曲「ホテルカリフォルニア」に例えられてきた:一度入ってしまったら、逃れることができなかったのだ。

難しいことだからこそ、Spinnakerの存在はNetflixに競争上の優位性をもたらすことになる。Netflixだけがクラウド間を移動できて、競合他社はできなければ、Netflixに(価格競争を通じて)価格優位性がもたらされ、収益性においても優位な立場に置かれることになる(障害が少ないということは、品質の高さとして受け止められる)。では、なぜNetflixはSpinnakerをオープンソースとして開放したのか。自社だけで独占しようとは思わなかったのだろうか。

Netflixとしては、自社が依存するのであれば、標準化されたサービスが、より大規模で堅牢なエコシステムとなっている方がメリットがある。サプライチェーンの主要部分のサービスも料金も競合勢力の存在により向上することも期待できる。そして、何より、AWSが条件を牛耳ることができるような事実上の独占状態に陥らないようにすることが、Netflixにとっては重要なことなのだ。

そこで、グーグル、マイクロソフト、Pivotalとの提携が登場する。各社共に、一定のマーケットシェアを得たいと考えているわけで、将来的な顧客にAWSと併せて自社サービスを使えるようにすることは、AWSの立場を弱くすることにより自社の立場を強くすることになる。もし自社が他の領域で競争力のある強みを保有している自信さえあれば(例えば、エンタプライズへの対応力や、他システムとの統合力等)、自社の事業の一部をコモディティー化させてでも、AWSをコモディティー化することにメリットがあるわけである。

Netflixにしても、AWSがAzure、グーグル、Pivotalと競合することによって生じる価格の下落はNetflixがAWSと強固なパートナーシップを結び大量利用によって得られる割引よりもよい条件になると思われる。もしNetflixが「付加価値」のついたサービスよりも、信頼性の高いサービスの供給と価格を重視しているのであれば、そういう意味でもSpinnakerの開放は理にかなった戦略なのだ。

Netflixをこのクロス・クラウド、マルチクラウドできる機能の顔とすることで、現在パートナーシップを結んでいる企業たちは、他社が興味を持ち、真似てくれること、少なくともSpinnaker的なアプローチを採用する企業の数が増えることを願っている。
さあ、Netflixの戦略は、吉と出るのか。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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