──2025年のキーワードとして、「Question(問い)」と「Creativity(創造性)」を組み合わせた「Questivity」をあげた。その理由は?
宮田:背景にあるのは生成AIのインパクトだ。歴史の分岐点は後から振り返ってわかるものだが、その時代の人々が同時に意識するショッキングな出来事として現れるケースもあれば、小さな動きからじわじわと広がっていくケースもある。生成AIは、その中間だろう。
産業革命以降、人々は青年期まで知識と技術を学び、それを用いて社会に役立てていくモデルで生きてきた。そのモデルは検索エンジンの登場で壊れ始めていたが、生成AIの登場で決定的になった。知識は検索すれば出てくるし、もはや課題の整理も生成AIでできる。学ぶこと、働くこと、そして生きることの根本的な変化が起きているのだ。
課題整理まで生成AIができるようになった今、人には何が残されているのか。それは問いを立てることである。問いを立てるといっても、すでにある正解を引き出すための問いではない。これから求められるのは、新しい価値を生み出すための問い。つまり、問いと創造性を組み合わせたQuestivityを磨くことが大切になる。
──価値にもいろいろなものがある。2025年に目指すべき価値は何か。
宮田:人々はこれまで農業革命、産業革命、そして今のデジタル革命につらなる情報革命を経験した。狩猟時代は小さなコミュニティで信頼し合うことが重要だったが、農業革命で食糧の生産効率が高まってコミュニティが大規模化すると、侵略も含めて土地を拡大できる人がリーダーになった。
次の産業革命ではお金の力が強まり、暮らしや文化、そして国という巨大なコミュニティまでもが経済の原理にのみ込まれていった。もともとお金は価値を交換するための手段に過ぎなかったが、それが目的化したのだ。
しかし、「グリードこそ正義」では持続可能性がない。その反省の背景で伸びてきたのがデジタル技術だ。デジタル技術はそれまで見えなかった人と人、人と世界とのつながりを可視化する。それによって、お金だけではなく、環境や人権、健康、ウェルビーイングといった価値が世界を駆動する力になりうることも見えてきた。デジタル革命以降は、経済的価値に収斂されない多様な豊かさを生み出す人がリーダーになるだろう。
分断が進行する世界で大切なこと
──ふたつ目にあげたキーワードは「Echomunity」。「Echo(共鳴)」と「Community(共同体)」を組み合わせた造語だ。宮田:Echomunityは、多様な豊かさと関連している。産業革命以降、世界では都市化が加速した。安価な労働力を得るために人々を近くに住まわせることが、経済原理としても強力であった。しかしその結果、多くの地域は個性を喪失し、同じようなまちになった。どこも同じなら人々はより集約化が進んだ大都市を選び、地方は衰退していくのだ。
そのなかで今活気があるのは、人と人が共鳴しながら、経済合理性とは別軸で地域の強みを価値に変えているEchomunityだ。例えばアートの直島、パウダースノーのニセコ、伝統文化をもつ飛騨高山。これらの地域では、そこにかかわる人々が、その地域の強みに価値を見いだして共鳴するコミュニティを形成している。
自然が魅力のまちがあれば、歴史的建造物や食文化を中心としたまちがあってもいいし芸術家が集まって新たにカルチャーを育むまちも素晴らしい。いきなり大都市という単位では難しいかもしれないが、人と人がつながって共鳴するコミュニティ単位なら、多様な豊かさを実現できるのではないか。