宮田:テクノロジーはつながりを可視化して共鳴を生む一方で、エコーチェンバーで分断を生むこともある。しかし、分断や敵対から未来は生まれない。一時的な揺り戻しで分断が起きることはあっても、人と人、人と世界がお互いを尊重して調和して、Better Co-being(より良い共存)を目指す潮流は変わらないだろう。
Better Co-Beingに関する私の原体験は、「モナ・リザ」だ。ダ・ヴィンチは解剖や植物、軍事など多くの領域で研究していたが、それらはすべてモナ・リザを描くためだったという説がある。例えばあのほほ笑みは、人体を解剖して表情筋を研究したから描けたというわけだ。
ダ・ヴィンチはモナ・リザを晩年まで手元に置き、弟子に生前贈与して死んでいった。彼はいったい何を残したかったのか。モデルは当時の美の基準でいうと普通の人だとされるが、絵と向かい合うと、お互いに微笑み合っているような錯覚に陥り、不思議と心が満たされていく。人と人は肯定的な感情でつながれることを、あの絵は教えてくれるのだ。
また、空気遠近法で描かれているため、人と向かい合っているのに遠い背景、つまり未来を見ている感覚も覚える。人や世界とつながりながら未来をつくることがBetter Co-Beingの概念。ダ・ヴィンチは、あの絵で私たちにとって必要な普遍的なものを示したというのが私の解釈だ。分断が進行する今だからこそ、私たちはダ・ヴィンチが伝えようとしたものを思い出すべきだ。
──25年の大阪・関西万博では、「Better Co-Being」と名づけたパビリオンをプロデュースしている。宮田:従来の万博は、技術の結晶として人工的なモニュメントを展示してきた。しかし、デジタル技術がもたらすものは共鳴であることを考えると、今回の万博は生態系を招くことがふさわしいと考えた。「Better Co-Being」では生態系の象徴として森を招き、つながりを示すために壁や天井もないパビリオンにした。持続可能性と多様性ある豊かさの調和のなかで、未来を感じてほしい。
みやた・ひろあき◎2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士。09年から東京大学大学院医学系研究科准教授、14年に同教授。15年から現職。医学領域以外でも実践に取り組み、経団連などと連携し新しい社会ビジョンを描く。


