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宇宙

2025.01.12 13:30

宇宙という新産業創出の成功事例。官民ファンド「異例の大型投資」

大重信二|INCJ

大重信二|INCJ

「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2025年版の1位に輝いたのはINCJの大重信二だ。新産業創出を目的にした官民ファンドだからこその投資ストーリーとは。


官民ファンドのINCJ(旧・産業革新機構)ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長の大重信二には、今でも印象に残っている言葉がある。2024年6月に東証グロース市場に新規株式公開(IPO)したアストロスケールホールディングス(HD)の社長兼最高経営責任者(CEO)、岡田光信による次の言葉だ。

「『私たちの事業の勝ち筋は技術が半分ですが、残り半分は資金です』と。変におごることなく、自分たちのビジネスモデルに対するつくり込みの深さや、エンジニアリングや技術力の高さを前面に押し出すのではなく、客観的に見て資金の勝負が大きいと出会った当時(14年)から言っていた」

アストロスケールHDは、人工衛星を使用して運用終了後や故障した衛星をはじめ、既存のスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去したり、運用中の衛星の軌道修正や燃料補給を行ったりするサービスの開発を行っている。民間企業で世界初のデブリ除去の商用サービス化を目指しているスタートアップだ。

「特許ひとつで勝てるビジネスでもなく、今後グローバルでの競争相手も出てくる。勝ち切るためには、資金の力も含めて進化のスピードを上げて逃げ切るしかないと岡田さんは当時から考えていた。弱腰ではなく、冷静に覚悟を決めていた。勝負の半分を決する資金は我々がいちばん支援できる部分。ここで投資しないでどうするんだと」(大重)

INCJの前身である産業革新機構は09年7月、次世代の国富を担う産業を育成・創出することを目的に設立された官民ファンドである。大重が所属した同ファンドは16年3月、アストロスケールHDのシリーズBでの資金調達時にリード投資家として3000万ドル(当時34億円)の出資を決めた。ただ、大重曰く「異例の大型投資」で一筋縄にはいかなかった。

「当時の産業革新機構のスタートアップ投資は金額感として10億円以下。テーマももう少し地に足がついた実現性の高い技術が多かった。そこから一歩も二歩も飛び越えた技術・テーマであり、かつ、宇宙のゴミ処理に(顧客として)誰がお金を出すのかわからない。『さすがにリスクを取りすぎではないか』とチームのメンバーでさえ反対していましたから」

組織内でも「頭を冷やせ」「冷静になれ」という声が出るなか、大重は「応援団づくり」と称して、宇宙の業界構造、環境を丁寧に説明しながら「そう遠くない将来、必ずこの事業が必要になるタイミングがくる。今、我々がやらなくてどうするのか」と社内を説得して回り、味方を増やしながら風向きを変えていったという。「ただ、社外取締役で構成されている最終意思決定機関である革新委員会でも意見が割れるなど非常に厳しい船出でした」
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文=山本智之 写真=ヤン・ブース

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