両者をつなぐキーワードが、「コラーゲン」だ。
コラーゲンと聞くと美容のイメージが強いかもしれないが、最近ではその疲労回復効果が注目され、練習や試合後に摂取するアスリート増えている。
そもそもコラーゲンは、私たちの体内にあるタンパク質の30%を占めている、人体にとって重要な要素だ。皮膚や靭帯、筋肉、血管など体のあらゆる部位の結合組織を構成している。
ちなみに、コラーゲンの由来は魚以外にも豚や鶏などさまざまだが、動物性よりも体温の低い魚の方が吸収率が高いとされている。そのなかでも魚皮由来のものは希少価値とされている。
ダイトー水産は、この魚皮由来コラーゲンに目をつけた。水産加工事業の余りや周囲の水産事業者から出るまぐろの皮を集め、コラーゲンを抽出して商品化しているのだ。
具体的には、抽出したコラーゲンを主原料にしたゼリー飲料を販売している。主力商品は、『オレは摂取す』というユニークな名前のリカバリーゼリーだ。
鉄分などを配合して疲労回復効果を高めた『オレは摂取す』は陸上選手に人気で、東洋大学の駅伝チームや亜細亜大学の女子陸上部、長距離の名門、京都の洛南高校などが日常的に使用している。
そうして『オレは摂取す』の名前は陸上界で徐々に広がり、出雲駅伝のスポンサーを探していた文化放送の目に止まったというわけだ。
協賛名には商品名を用い、番組は「『オレは摂取す』Presents第36回出雲全日本大学選抜駅伝競走中継」として放送された。
「コラーゲン事業を立ち上げたのが2008年。さまざまな試行錯誤を重ねながら、辿り着いたのがスポーツでした。立ち上げ当時は、まさか水産加工業者の自分たちが駅伝のスポンサーをするなんて、夢にも思いませんでした」(齋藤社長)
しかし、ここに至るまで、漁業一本でやりくりしてきたダイトー水産のビジネスは決して順調ではなかった。
むしろ、経営難を回避するべく、逆風下を懸命に生き抜いてきたという方が正しい。
「水産加工だけ」では生き残れない
ダイトー水産の歴史は古い。古文書によると、応仁の乱の時代に先祖が静岡県に流れ着いて漁業を始めたのがきっかけだったという。
水産加工に転換したのは1991年。従来、手掛けていた遠洋漁業は、大漁の日もあれば成果がない時期も続く博打性の高いビジネスで、経営が安定しづらかった。
加えて、1977年に200海里の経済水域が設定され、公海自由の原則で世界中で魚をとってきた日本の水産業は、打撃を受けることになった。
そこで、齋藤社長の父である治忠氏(現会長)が経営を担っていた時代に、安定性の高い水産加工ビジネスへの転換を決断した。
その後、遠洋漁業時代よりも経営は安定するも、2000年代に入るとビジネスへの逆風が強く吹き始めてしまう。
最も影響が大きいのが、気候変動による海水の温度上昇や漁業の担い手の減少によって、漁獲量が大幅に減少してしまったことだ。
さらに、2000年代以降に続いてきたデフレもダイトー水産を襲った。
水産加工業は、どうしても価格競争に陥りやすい。丁寧な作業や衛生面の向上などの企業努力も、消費者の「もっと安く」という強烈なニーズに飲み込まれてしまうからだ。
デフレ圧力が高まれば加工賃が下がり、収益を圧迫されてしまう。価格競争に巻き込まれた結果、ダイトー水産の加工賃は、デフレで2割以上も安くなってしまったという。
「水産加工のビジネスは、どれだけ自分たちで努力しても、漁獲量やデフレといった外的要因にビジネスが左右されてしまいます。あまりにも先行きが不安定すぎるので、新たな柱となる事業をつくろうと決心しました」(齋藤社長)