背景には“潤”店主の出現が
とはいえ、それほど単純な1つの方向のみに流れることはないのが、ガチ中華の世界である。筆者は前回のコラム「ガチ中華だけではない、中国発ブックカフェとライブハウスが東京に出現した理由」で、東京・銀座の中国語ブックカフェ「単向街書店」(中央区銀座1-6-1)で「勢い増すガチ中華この先どこへ向かう?―ガチ中華から浮かび上がる華僑たちの情熱とビジネス」と題したトークイベントを行ったことを書いた。
そのときのイベントで筆者は、今年の最新動向として (1)「さらなる出店増加 。背景に“潤”(run)店主の出現」、(2)「中国の少数民族料理と香港・台湾の店が増えている」、(3)「この先、ガチ中華はどこへ向かうのか?」という話をした。
以下、その内容を解説していこう。まず、(1)「さらなる出店増加 。背景に“潤”(run)店主の出現」についてから。
ガチ中華が2024年になってもさらなる出店が見られた背景には“潤”店主の出現がある。“潤”店主とは、中国経済の低迷と資産価値の下落状況から海外に活動の拠点を移す新移民が増加しているなか、日本で飲食店を始めた人たちのことだ。
資産を海外に移したい富裕層だけでなく、中国の大都市在住の庶民階層もいるようだ。前者は高級なレストラン業態を手がけ、後者は個人経営のローカル業態であることが一般的だ。
それが可能となった背景には、外国人の就労ビザで通称「経営・管理ビザ」と呼ばれる制度がある。これは日本政府が外国人に投資してもらいやすい環境を整えるために2015年から始めたものだ。
簡単に言えば、一定額の投資を条件に日本で起業して経営者になるか、企業の管理者(マネージャー)として働くかで取得できる就労ビザで、後者はそれ相応の高い学歴が必要とされるが、前者はそれが問われない。中国で飲食店経営をしていたような人物でも投資資金があれば、いくつかの条件を整えることで、日本でも飲食店を始められるわけだ。
政府がこうした外国人就労の促進に舵を切った背景には、日本の経済競争力の低下と労働力不足がある。日本人の投資意欲が低調なことも理由かもしれない。
都内で行政書士をしている知人によると、経営・管理ビザの申請数は圧倒的に中国籍の人たちが多く、業種は貿易や不動産斡旋、飲食などの業種が多いという。つまり、コロナ禍後、さらに新たなタイプのガチ中華オーナーが参入してきたのである。