自分も72%に入っている、と思ったあなたはきっと、こうした習慣が不健康だとは知っていることだろう。しかしどんなにがんばっても、不健康だと知っているだけでは、悪習から脱却するのは難しい。
「なぜ人は、別のことをしようと思っていながら、習慣に従って行動してしまうのだろう?」この疑問は、行動変化に関心をもつ研究者ウェンディ・ウッドの頭から離れなかった。同氏がCurrent Directions in Psychological Scienceに2024年6月に発表した論文によれば、その答えは「習慣の記憶、すなわち文脈と反応の結びつきにある。こうした結びつきは、安定した文脈において報酬が得られる行動を繰り返すことで形成される」
意外かもしれないが、習慣を再形成することは、モチベーションとは関係がない。いくら本気で悪い習慣を断ち切ろうと思っていても、それだけでは不十分なのだ。むしろウッドに言わせれば、効果的な行動変化の秘訣は、意図と記憶にある。
そして、これはあなたが思うよりもシンプルだ。ウッドの研究に基づき、悪習をきれいさっぱり断ち切るために必要な3つのステップを解説していこう。
1. 新しい報酬システムを見つける
不健康な習慣は、私たちがネガティブな効果を望んだ結果として形成されたわけではない。習慣の形成は、多くの意味で、それが快感をもたらすからこそ起こるのだ。2003年に出版された学術書『Human Decision Making and Environmental Perception』では、「このような悪い習慣は、自分にとってポジティブな直接的結果が得られるが、長期的にはネガティブな帰結がもたらされるような行動と結びついている可能性がある」と説明されている。
こうした習慣が、どれだけ危険で嫌われるものであっても、主観的かつ短期的には報酬がもたらされている。長期的な帰結はさておき、喫煙すれば気分が落ち着き、車でスピードを出せば興奮でき、ファストフードでは満腹感が得られる。
このため、悪習を断ち切るための最初のステップとしてウッドが提案するのは、「報酬の効果を失わせることで、それが本質的に単なる習慣であり害悪であることにみずから気づくように仕向ける」という方法だ。これができれば、私たちは同じ報酬構造を利用して、自分を騙して、より健康的な習慣を実践させることができる。
例えば、平日疲れて帰宅したあと、テレビ番組を連続視聴してしまう習慣があるとしよう。ソファに寝転んでリラックスしたまま、エピソードに次ぐエピソードを流しつづけることがもたらす満足感はあまりに強烈で、健康的な夕食をつくろうと思っていたあなたの意図を上書きしてしまう。見終わる頃には、食事をつくるよりも、テイクアウトを注文したり、ジャンクフードをつまんだりする方が楽だと思っている。
ここで大切なのは、悪習よりも大きな報酬になるような代替手段を見つけることだ。帰宅したら、すぐに夕食をつくりはじめよう。夕食の準備ができ、食べ終わったら、自分へのご褒美として、お気に入りの番組のエピソードを1つだけ見る。時が経つにつれて、ディナーのあとの1エピソードという報酬の効果により、脳は、健康的な食事をつくるという行動を、楽しくリラックスできる体験と解釈するようになる。
この新しい報酬システム(料理して食べたあとでテレビを見る)は、あなたの脳内でリフレインを始め、やがてあなたは、「料理したという達成感」を得たいと思うようになる。やがては、料理そのものがリラクゼーションの過程の一部に組み込まれるかもしれない。穏やかな夕方の時間の始まりとして、夕食の準備を楽しみに思うようになり、栄養満点の食事とその後の報酬から得られる満足感が、新しいポジティブな習慣を強化する。