神戸の若手クリエイターたちが弘前の「ねぷた絵」を描いて得たものとは?

森田望奈未(左)と山口空純(右)

今年5月、青森県弘前市からやってきた高さ約8メートルという扇形の山車「ねぷた」が、神戸ハーバーランドの岸壁に現れた。ゆっくりと「ねぷた」が巡行をはじめると、大勢の人たちのどよめきと歓声が夜の神戸港を包み込んだ。
 
2020年に「フジドリームエアラインズ」という会社が、神戸空港と青森空港を結ぶ航空路線を開設。これをきっかけにして、青森への観光客を呼び込もうと、2022年から「弘前ねぷたまつり」で使用する山車を呼び物に、地元の魅力を伝えるイベントが神戸で開かれるようになったのだ。

ねぷたの絵を描く神戸市のプロジェクト

「弘前ねぷたまつり」は、青森県の津軽地方を代表する夏祭りだ。8月の同じ時期に青森市で行われる「青森ねぶた祭」が全国的には知られているが、武者絵などを描いた勇壮華麗な山車が、市街地を練り歩くのは両者とも変わらない。ただ、そのときの掛け声が弘前は「ヤーヤドー」、青森は「ラッセーラ」と異なっている。
 
山車の形にも違いがある。青森は横に長い立体的な人形のような形状だが、弘前は縦長だ。長方形の土台の上に扇形をした木枠をつくり、「三国志」や「水滸伝」といった歴史物語に登場する人物を描いた紙を貼って、内部から明かりを灯している。
神戸ハーバーランドを練り歩く弘前ねぷた

神戸ハーバーランドを練り歩く弘前ねぷた

そんな「弘前ねぷた」の絵を描くために、5名の若手クリエイターが神戸の「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」に集まった。伝統芸能などとは縁がないデザイン分野の学生や専門家たちだ。
 
神戸市は、芸術や映画、デザインなどクリエイティブな分野の人材はこれからの時代には重要な存在になると考えて、その育成に力を入れているが、弘前との関係を深めていくうちに、ねぷたの絵を神戸のクリエイターやその卵たちに描かせてはどうかと発案した。
 
専門分野に閉じこもりがちな若いクリエイターたちが、伝統分野の熟練した絵師と交流することで、自分たちの「仕事」をあらためて見つめ直せる。そのように視座が広がれば、将来生み出す作品も多彩なものになるだろうと考えたからだ。
 
神戸市が公募した、このねぷた絵を描くプロジェクトには、11名が手を挙げ、5名の女性が選抜された。
 
彼女たちを指導するのは、ねぷた絵師の三浦吞龍(どんりゅう)。これまで600台以上の大型ねぷたの絵を描き、東京で何度も個展を開いている超ベテランだ。彼から指導を受けながら、彼女たちは下絵を描いて、墨書き、彩色に至るまでを取り組んだ。
彼女らを指導するねぷた絵師の三浦吞龍(どんりゅう)

彼女らを指導するねぷた絵師の三浦吞龍(どんりゅう)

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文=多名部重則

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