一般に、貿易戦争の初期段階では双方の感情が高ぶり、自国にはほとんど影響を及ぼさないが、相手国には多大な害を及ぼすような製品を関税の対象にするのが通例だ。例えば、米国の関税発動から半年後、中国は報復措置として米国産の大豆を対象に選んだが、これは理にかなっていた。なぜなら、米国の大豆輸出業者は中国市場に大きく依存している(2017年の輸出の57%)一方で、中国にはブラジルからの輸入という別の選択肢があったからだ。
ところが、関税の適用が長引くと、相手国は新たな貿易環境に適応し、回避策を見つけ、他国との同盟関係を築く時間を得ることになる。時の経過とともに、双方の貿易戦争に対する弱点も露呈する。こうした弱点をつかむ上で重要なのは、貿易志向と他国との協調性の2点だ。中国はこの双方で窮地に陥っている。
まず、貿易の志向について見てみよう。政策立案者の観点からすれば、他の条件がすべて同じであれば、輸入志向の強い国ほど関税の面で多くの選択肢を持つことになる。反対に、輸出志向の強い国には選択肢が少なく、他国の関税の影響を受けやすい。
米国と中国の国内総生産(GDP)に占める輸入の割合は、それぞれ14%と17.6%と同程度だ。だが、1つだけ大きな違いがある。GDPに占める輸出の割合を見ると、米国は11.1%であるのに対し、中国は19.7%とはるかに輸出志向が強いことだ。これにより、中国は貿易を巡る報復措置の影響を受けやすい状況にあるのだ。
次に、他国との協調性を見ていこう。例えば、もしブラジルが米国の代わりに中国に大豆を供給しようとしなかったら、中国は大豆価格の上昇を受け入れなければならなかっただろう。しかし、ブラジルはこの貿易戦争で自らリスクを負っているわけではなく、単に世界最大の買い手である中国に対する主要作物の輸出を拡大したいだけなのだ。他の品目に目を向けると、各国の協調関係は米国側に有利に働いている。
中国の電気自動車(EV)に対する米国の関税を例にとってみよう。米国の関税は、多額の補助金を受け、低価格で販売される中国製EVから国内産業を保護することを目的としている。欧州連合(EU)とカナダも米国と同様の関税を課したことで、中国のEV輸出は伸び悩んでいる。