真田広之の「1分89ワード」に凝縮された熱く深いスピーチ:エミー賞

装いとボディランゲージの相乗効果

真田氏のプレゼンスを一層強化していたのが、その装いだ。ディオール・メンのブラックスーツは、シンプルながらも光沢のあるサテンの襟部分がアクセントになり、彼の上品さとスタイリッシュさを引き立てていた。

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シャツもタイもブラック、足元もブラックのパテントレザーのシューズで統一。黒いフレームの眼鏡をかけ、黒髪を後ろでポニーテールにしたオールブラックスタイルだ。黒一色でまとめることにより、大柄でない彼の体を、特に縦方向にひとまとめし、大きく見せる効果を狙っていたのではないかと分析する。

ポケットチーフは襟のサテンと同じ光沢を放つ素材のもので、胸ポケットからほんの1cmほど控えめにのぞくTVフォールド。このスッキリと洗練された細部へのこだわりが、彼の出で立ちをさらにエレガントで落ち着いたものにすると同時に、胸の辺りに過剰なフォーカルポイントをつくらないことで、ここでも全身のつながりを途切れさせることなく、縦長の存在感を作り出すことに成功していた。

過剰な装飾を避けたその選択は、真田氏のスピーチスタイルとも調和しており、堂々とした姿勢を視覚的にサポートしていた。シンプルでありながらも圧倒的な力強さを持ち、視覚的にも聴覚的にも彼のメッセージを補完するものとなっていたのである。

真田氏のジェスチャーや身のこなしといった動作にも注目したい。

人間は精神的に衝撃を受けた時に余計で細かい体の動きをしたり、目が泳ぐような表情をしがちだが、それとは真逆。必要以上に大げさになることも、慌てているかのように終始動いているようなこともなく、落ち着きと自制が見られた。声も落ち着いたトーンで非常に聞きやすく、視聴者の注意を自分の言葉と姿に集めることに成功していた。これにより良い意味の緊張感を帯び、メッセージの説得力が高まったのだ。

世界を舞台にしたスピーチの新基準に

この受賞スピーチは、従来スピーチとして基準とされてきたワード数やスピードにとらわれない、真に強いメッセージの力を示したものとなった。少ない言葉とゆっくりとしたペースで、彼の内面の落ち着きと確信を反映させたスピーチは、単なる感謝を超えた深い感情を表しているかのように感じさせた。
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