デンマークの地震学者インゲ・レーマンは1936年、地表で起きた地震で発生した地震波の伝播時間と速度を分析して、地球の内部が層構造を示していることを発見した。固体の鉄とニッケルの球体と、その上を覆う液体金属の層で地球の核を形成しており、核の周囲を半硬質の岩石マントルが包み込んでいる。
地球内部の従来の研究では、地震波の観測技術が利用されており、地震発生から最初の1時間以内に生成された信号を観測していた。だが、ANUのチームによる今回の最新研究では、従来の研究手法を用いるのではなく、震源時(地震の発生時刻)から数時間後の地震波波形の類似性を解析することで、比類のない発見をなしとげた。
論文の共同執筆者で、ANUの地球物理学者のフルボイエ・トカルチッチは「地震波の経路の幾何学的配置と、外核の体積を波がどのように通り抜けるかを解明することにより、地球の内部を通る地震波の伝播時間を再構築し、新たに発見された領域では地震波が低速であることを実証した」と説明している。
「この特異な構造が今に至るまで見つからないままだった理由は、過去の研究で、大地震の震源時から通常1時間以内に限定した地震波の観測により、外核の体積のより狭い対象範囲のデータを収集していたからだ。今回の研究で体積の対象範囲をはるかに拡大できたのは、大地震発生から数時間の間の残響波を調査したからだ」と、トカルチッチは続ける。
新たに発見された構造は、地震波が低速で、液体の核(外核)がマントルと接する境界に沿っており、また非常に興味深いことに、その他の層のように球殻状の領域にはなっていない。
「この領域は、赤道面に沿って位置し、低緯度帯に限局され、ドーナツの形状をしている。ドーナツの正確な厚みは不明だが、コアとマントルの境界の下方数百kmに達していると推測している」と、トカルチッチは述べている。
核とマントルの境界領域は、地球磁場(地磁気)の発生源となっている。この領域の電気伝導性流体の対流と地球の自転で促進される活発な運動によって磁場が生成される。この磁場は、地球を守る盾となり、有害な太陽風や宇宙線からあらゆる生命を保護し、維持する助けになっている。
「今回の研究結果が興味深い理由は、液体核内の低速から次のことが示唆されるからだ。すなわち、この領域に高濃度の軽い化学元素が含まれており、これが原因で地震波が減速していると考えられる」と、トカルチッチは指摘している。