驚くべきことに、その溶液はインフィニティ・ストーン(マーベル作品に登場する架空の宝石)のような魔法でも、2000年のSF映画『インビジブル』で使用された秘密の軍事的なものでもない。その主成分は、スナック菓子のドリトスによく使われているものなのである。そう、あのドリトスだ。それは、タートラジンとしても知られる、米国では「Yellow No.5」と呼ばれる着色料である(日本では黄色4号と呼ばれる)。
なお、ドリトスをつかんだ後の黄色やオレンジ色になった自分の手を疑わしげに見つめ始める前に、スタンフォード大学の材料科学科の助教授であるグオソン・ホン博士が率いる研究チームが、通常チップスに含まれているよりもはるかに高濃度のタートラジンを使用したことを覚えておいてほしい。そのため、通常はチップスを食べている間に手の内側が見えることはないはずだ。何か他の恐ろしいことが起こらない限りは。
この高濃度のタートラジン溶液は、研究に使用されたマウスに迅速に効果を発揮した。研究者たちがマウスに塗布してからわずか5分ほどで、マウスの体内の働きが見えるようになったのである。しかし、この透明性は永続的なものではなかった。研究者たちがマウスの体から染料を洗い流すと、マウスたちは元の不透明な姿に戻った。また、研究ではマウスに対する重大な毒性影響は見られなかった。
この方法は現時点ではマウスにのみ適用可能かもしれないが、将来的に人間に応用できるようになれば、医療に革命をもたらす可能性がある。人間の皮膚を透かして見ることができれば、手術を行わずにさまざまな状態をより容易に診断できるようになるだろう。これには、皮膚内および皮膚直下に存在するさまざまな医学的状態が含まれる。また、透明になることで、カテーテルを様々な血管に通したり、皮膚内および皮膚下のものを除去したりするなどの医療処置を、より適切に行う役に立つかもしれない。
さて、タートラジンがどうして肌を透けさせてしまうのか、知りたくてたまらないことだろう。すべては光学的な問題だ。ガラスのような透明な物体は、光が曲がることなく通過できるため透明に見える。しかし、ガラスに霜のような物質がつくと、光をさまざまな方向に曲げたり屈折させたりし始めるため、ガラスの透明度が下がる。光の屈折が多くなればなるほど、透明度は低下する。
皮膚に含まれる様々な細胞、膜、その他の物質について考えてみよう。そうすれば、皮膚を通過しようとする光がどれほど曲げられ、屈折するかが分かるだろう。これにより、皮膚は通常かなり不透明になっている。
研究チームは、生体組織の光の屈折率を下げる物質を探し、タートラジンが有効であることを発見した。生の鶏肉をタートラジン水溶液に浸すと、鶏肉が透明になったことから、この物質が組織を通過する光の屈折や散乱を減少させることが明らかになった。次に、マウスでの実験が行われた。
理論的には、このようなメカニズムは人間の皮膚にも当てはまる。しかし、あなたが毛むくじゃらでヒゲが生えていない限り、ネズミに起こることがあなたにも起こるとは限らない。そして、単にドリトスを体中に塗りつけても、これを確かめることはできない。よって、タートラジンを使った人体実験が行われ、その結果が出るまで待つ必要がある。
(forbes.com 原文)