ライフスタイル

2024.08.29 14:15

太宰府天満宮の駐車場は、なぜ徒歩7分の場所にあるのか

西高辻さんは2006年から「太宰府天満宮アートプログラム」を立ち上げ、神社内を境内美術館と銘打って、さまざまな現代アートの展示を行なっている。参道にスターバックス出店が決まった際、店舗設計者として隈研吾さんの紹介に協力したり、築100年以上の古民家を改修した「HOTEL CULTIA」の運営に参画するなど、神社と文化芸術を見事に融合させて新しい価値を紡いできた。今でこそアートがムーブメントになっているが、20年近く前からアートに力を入れてきた西高辻さんの審美眼が光る。

これは太宰府天満宮御祭神の菅原道真公が学問と並んで文化芸術の神様としても崇められてきた歴史的な背景を鑑みて、未来にどのような価値を紡いでいくべきか、という問いと向き合った結果であろう。決して、アートが将来的にくるから先駆けて取り組もうという近視眼的な戦略として実行されたものではない。長い過去を遡って自分たちの価値を整理し、それを長い未来へ向けて再構築していこうという姿勢が、結果としてイノベーションを生み出しているのだ。

境内で観賞できるコンセプチュアル・アートの旗手、ライアン・ガンダーの作品。

境内で観賞できるコンセプチュアル・アートの旗手、ライアン・ガンダーの作品

太宰府天満宮の「自分たちをどう捉えるか」と「どれくらいの時間軸で考えるのか」について考察してきたが、実はこの2つが密に関係し合っていることに気づいた方も多いだろう。自分たちを広く捉えるならば自ずと時間軸は長くなり、時間軸を長く捉えれば、自ずと自分たちの範囲は広がりを見せる。ライフスタンスを語る上で重要な2つの要素、実は相関関係にあるのだ。

ではこの2軸を定めるにあたり、どのようなことを心に留めおけば良いのか。一見、“自分たち”は広い方がいいし、“時間軸”は長いに越したことはないと思いがちだが、私は「嘘にならない線引き」が必要だと考えている。例えば私は「日本の工芸を元気にする!」にコミットしているが、「日本のモノづくりを元気にする!」の方が、より広く世の中に役立ちそうな気がする。でもモノづくりとなった瞬間、例えばトヨタもその中に入ってくる。もちろんそれを背負える訳もなく、背負いたいとも思えない。つまり自分の興味関心、得意領域の範囲を定め、嘘にならない線引きが必要なのだ。自分にとって嘘がなく、かつ広く社会的な役割も果たせる線引きができれば、自ずと“私たち”は広くなり、長い未来を見据えられるはずだ。

ちなみに未来を長く見据えられると何が良いのだろうか。車の運転免許を取る際に、自動車教習所でS字を走る練習がある。カーブを曲がろうと思って、手前ばかり見てハンドルを切ると脱輪してしまう。でも先を見ながら運転すると、体が自然と適切にハンドルを切ってくれる。圧倒的に楽に走れるのだ。例えば経営に関しても今年一年の黒字目標を定めるより、まず長期的な経営計画を策定した方が、結果的に一年の黒字目標は達成しやすくなる。実際にそのように業績を伸ばしてきたし、コンサル先やクライアントでもそのようなケースをたくさん見てきた。だからこそ、ライフスタンスでは「自分たちをどう捉えるか」「どれくらいの時間軸で考えるのか」にこだわるのである。

文=中川淳 構成=国府田淳

ForbesBrandVoice

人気記事