表面的に見ると、よりヘルシーな食事の選択を促し、全体的なウェルビーイングをサポートする食事法に思える。しかし、クリーンイーティングが何を意味するかについては、幅広い解釈が可能だ。また、最近の複数の研究では、このような食事法の安全性と実行可能性に疑問が投げかけられている。
以下では、クリーンイーティングというトレンドに疑いをもつことがなぜ重要なのか、これまでの研究成果から理由を2つ説明する。
1)問題のある食行動を助長する可能性
クリーンイーティングのトレンドは、食べ物に白黒をつける考え方を助長するとして批判されている。すなわち、ある食品は完全に良いもの、別の食品は完全に悪いものとレッテルを貼り、「悪い」と判断した食品を厳しく制限する考え方のことだ。こうした考え方は、必須栄養素を含む食品群を悪者扱いし、特定の食品については、たとえ適量であっても、その摂取に恥や恐怖を感じることにつながる可能性がある。
2018年の研究によると、クリーンイーティングを肯定的に捉える女性は多いが、その一方で、クリーンイーティングを固守しようとすることは、「懸念されるレベルの食事制限」と相関関係があることが明らかになった。
特定の食品を厳格に避けることは、栄養不足に陥る食事制限につながる可能性があるだけでなく、食べ物や自分の身体との関係に歪みを生じさせる可能性がある。
論文著者たちは、こう書いている。「クリーンイーティングのような、検証されていない健康アドバイスが、約25億人のユーザーを抱え、かつ内容に関して規制のないSNSにおいて発信され、人々が実際には役に立たないかもしれないものを信じて従うと、その結果は危険かつ大きな犠牲を伴うおそれがある」
ネット上の栄養に関する誤情報は、懸念すべき問題となっている。例えば、科学誌のニュートリエンツで2018年に発表された研究では、人気のクリーンイーティング関連ブログに掲載されたレシピの栄養素含有量を調べ、これをクリーンイーティングを標榜しないレシピと比較した。クリーンイーティングのレシピは、1食あたりのタンパク質、脂質、食物繊維の含有量は有意に多かったが、その一方で、エネルギー(カロリー)、糖分、塩分に関しては、クリーンイーティングでないレシピと同程度であることが明らかになった。これは、健康的な代替案を求める消費者が、いかにウェルネス業界の思惑に踊らされやすいかを浮き彫りにしている。
また、未加工のホールフードやオーガニック食品は高価で手に入りにくい傾向があり、クリーンイーティングは多くの人にとって実践が困難だ。
さらに、「クリーン」な食事への執着は、オルトレキシア(Orthorexia nervosa)につながる可能性がある。これは、健康的で「完璧」な食事に、不健康に執着している状態のことだ。自分で決めた食事のルールを守れないと、極度の不安や罪悪感にさいなまれることもある。
摂食障害の治療を完全バーチャルで提供するWithin Health(ウィズイン・ヘルス)の最高医療責任者、ウェンディ・オリバー=パイアット博士は、こう説明する。「オルトレキシアは摂食障害の一種であり、『クリーンイーティング』という名目が隠れみのになりやすい。人は、自分自身を恥ずかしく思っているときにはマインドフル(いま・ここに集中し、ウェルビーイングにつながる意識状態)にはなれない。自分が思う『健康的な食事』を追い求めるあまり、低体重、低体脂肪率、その他の栄養不足が原因となって、深刻な健康問題にまで発展することも少なくない」
オリバー=パイアット博士は、自分と食事との関係が本当に健康的かどうかを見極める方法として、次のような問いかけを提案する。「一歩引いて、自分の生活の質はどうか、食べ物が生活の中でどれだけの時間とエネルギーを奪っているか、健康的な食べ物へのこだわりが人間関係を妨げていないか、考えてみてほしい。他の人から、自分の行動について疑問を呈されたことはないだろうか。自分が思う『健康的な食事』に当てはまらないものを食べることに、不安を感じていないだろうか」