プラチナとパラジウムに関しては、これまで供給過剰と需要の停滞が重荷となってきた。この2つの金属は、複数の点で共通する特性を持ち、市場にも重なる部分がある。これらの金属はともに、内燃機関(ICE:Internal Combustion Engine)を搭載する車両(ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車)の排気ガスから有害成分を取り除く触媒に使われる。
最近まで、「全世界的なEVへのシフトが起こり、ICE車の需要は大幅に減る」という見方が一般的だった。だがそれも、肝心の消費者側に、EVシフトを熱く支持する機運が見られないことが判明するまでの話だった。
航続距離、充電スタンドの不足、リセールバリュー(再販価値)の低さといったEVへの懸念が、業界に打撃を与えている。さらにこの裏返しとして、ICE車や、バッテリーとICE技術を組み合わせたハイブリッド車の人気が復活している。
パラジウムは、ガソリンエンジンの触媒によく使われる金属だ。一方、ディーゼルエンジンではプラチナが採用されることが多い。とはいえ両者は置き換えが可能で、どちらを採用するかは、これらの金属の価格に加えて、エンジン製造プロセスを変更するのにかかる時間によって決まってくる。
ハイブリッドエンジンの場合は、通常のICE車と比べてエンジンのサイズが小さいため、排気ガスから有害成分を取り除くのに必要な触媒用金属の量も少なくなる。
ハイブリッド車に対する消費者の関心が再燃していることは、EV専業メーカーであるテスラと、トヨタ自動車の株価の動きからも見て取れる(トヨタは、当初は批判を浴びたものの、ハイブリッド車の製造を継続している)。
直近の12カ月間で、テスラの株価が13%下落したのに対し、トヨタ株は46%上昇している。
プラチナおよびパラジウムの主要市場は、自動車以外では、ジュエリーと商品(コモディティ)投資だが、貴金属界の主役である金や銀に比べれば、二次的な位置付けにあった。
金の価格は、年初来で16%上昇し、同期間に銀の価格は28%上昇している。金の場合は、中央銀行による買い入れが、価格上昇を牽引している。また銀については、金と同様に資金の安全な避難先として投資家の関心が高まっているほか、太陽エネルギーなどの新興技術で、銀の使用量が増えているという事情がある。
プラチナとパラジウムは「低速車線」から抜け出せるか
しかしながら、プラチナとパラジウムの価格は、「低速車線」から抜け出せない状況が続いてきた。これは、長年の供給過剰と需要停滞が足かせになっていたためだ。7月15日現在、プラチナは1オンス996ドル(約15万5850円)で取引されているが、年初の価格と比較した上昇幅は、たったの1ドルだ。さらにパラジウムに至っては、年初来で1オンスあたり135ドル(約2万1100円)下落し、977ドル(約15万2880円)で取引されている。
だが、プラチナとパラジウムのこうした価格低迷が終わるかもしれない兆しはある。供給が抑制され、需要もゆっくりと増加しつつあるからだ。