海外

2024.07.17 13:30

ミッションは健康寿命10年延長。レトロが描く「不老長寿」への道筋

ターゲットは「健康になりたいと願うすべての人」。その市場規模を考えれば、同社は世界的企業になる可能性を十分に秘めていると言える。実際、複数のベンチャー・キャピタル(VC)から投資の申し出があった。しかしベッツ=ラクロワはそれを断った。唯一の投資家は、OpenAIのCEOサム・アルトマンだ。23年3月、科学情報雑誌MITテクノロジーレビューは、同氏がレトロ・バイオサイエンスに1億8000万ドル(約245億円)を投資したと報じ、話題を呼んだ。「不老長寿は、VCが想定する『数年でIPO』というタイムスケジュールで動く分野ではない。成功までに20年かかる可能性もあるがサムはそれに共感をしてくれている」

日本にも、不老長寿の波は来始めている。遺伝子解析スタートアップ、ジーンクエスト創業者の高橋祥子は、24年に日本で不老長寿スタートアップTAZ(たづ)を設立。加齢性の疾患患者に向けた老化細胞除去薬の開発などを目指す。同社は、月面探査コンテストで知られるXプライズ財団による「米国の高齢者の認知や筋肉を10年若返らせたら賞金1億ドル」というコンテストに参加することを表明しており、日本発としての活躍が期待される。

不老長寿はまだ実用化に至った例がほとんどない。ベッツ=ラクロワが語ったように怪しいビジネスという見方もある。ただ、レトロ・バイオサイエンスをはじめ、現在事業を推し進めている企業の根底には、数十年にわたって明らかにされてきた老化に関する研究成果が存在している。平均寿命80年から、健康寿命80年へ。富豪たちの巨大マネー流入を追い風に、そんな世界が近づいてきている。


ジョー・ベッツ・ラクロワ◎1962年、米国生まれ。科学者であり起業家。ハーバード大学で環境地球科学、マサチューセッツ工科大学で海洋学、カリフォルニア工科大学では生物物理学を研究。その後、世界最小のWindows PCを開発したことで知られる米OQOの共同設立、シリコンバレーのスタートアップCEOのメンターなどを経て、2021年にレトロ・バイオサイエンスを共同創業。

レトロ・バイオサイエンス◎
2021年に創業。細胞の若返りなどを通じて健康寿命を延ばす「不老長寿」に取り組む。23年3月には、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンが1億8000万ドル(約245億円)を出資したことを科学情報雑誌MITテクノロジーレビューが報じ、話題を呼んだ。ミッションは「人間の健康寿命を10年延ばす」。

文=露原直人

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事