この大量絶滅によって、地球生態系には広大な空白が生じた。このことで、現生鳥類の種の多様化と進化を促す舞台が整ったのだ。その後、鳥類は急速な進化を遂げ、生態系内のさまざまなニッチに適応していった。これが、今の我々が目にする、鳥類の種の多様性につながっている。
学術誌ネイチャーに2024年4月に掲載された画期的な研究では、これまでで最も詳細な鳥類の系統樹を作成し、鳥類の進化に関するこれまでの理解を塗り替えた。この研究は、今後数年のうちに現生鳥類のすべての種のゲノム解析を目指す『鳥類10000ゲノム(B10K)プロジェクト』の一環として発表されたものだ。
10年にわたるこのプロジェクトには、世界中の研究者が参加してきた。これは、363種の鳥類のゲノムデータと、200件近くの化石産状からの情報を統合し、鳥類のすべての科のうち92%を網羅するものだ。この包括的なデータセットが得られたことで、科学者たちは、長く続いてきた論争に解決の糸口を見出し、鳥類の進化史に関する新たな知見を得る、これまでにない機会を得ることになった。
この研究で示された系統樹(さまざまな生物種の進化における関連性を分岐で表現した図)では、新鳥類(Neoaves)と呼ばれる、現生鳥類のうち95%が属するグループを構成する4つの主要系統について、これまでの理解をさらに明確化している。この4系統とそれに属する主な鳥の種は、以下の通りだ。
1.Mirandornithes(賛鳥類):フラミンゴやカイツブリなど。
2. Columbaves(鳩鳥類):ハト、サケイ、カッコウ、ノガンやその類縁種。
3. Telluraves(陸鳥類):猛禽類の鳥、フクロウ、キツツキ、ハゲワシ、オウム、カワセミ、サイチョウ、鳴禽類(スズメ亜目)を含むスズメ目の鳥や、その類縁種。
4. Elementaves(元素鳥類、エレメンタベス):ペリカン、ペンギン、アビ、ハチドリ、ネッタイチョウ、ヨーロッパヨタカ、シギやチドリの類、ツル、アホウドリやその類縁種など、幅広いタイプの鳥がこのグループに入る。
上記の分類のうち1~3は、鳥類学でかなり以前からその妥当性が立証されているのに対し、Elementavesを別個のグループとする判断は、今回の研究における新たな発見だ。このグループは、陸上、空中、水中と、幅広い環境に適応した種によって特徴づけられる。
今回の論文が発表されるまで、このグループの存在は議論の対象となってきた。それは、このグループの存在を認めると、非常に多様な種が、このグループに含まれることになるからだ。具体的に言えば、ハチドリとアホウドリという、大きさも生態も両極端な2つの種類の鳥が、どちらもこのグループに属することになる。
ちょっと聞いた限りでは、こうした組み合わせには違和感を覚えるかもしれない。だが、これらの鳥の進化の過程を知れば、ゲノムデータでこれらの鳥が同じ進化系統に置かれる理由を理解することができるだろう。
Elementavesに属するこれらの鳥の進化過程について、現時点でわかっていることを以下に説明しよう。
Elementavesの出現は、分岐進化の物語
Elementavesは、鳥類が分岐進化を通じて、さまざまな環境上のニッチを生かして進化してきた過程を示す、見事な好例だ。こうした進化プロセスは、ガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチを彷彿させるが、Elementavesの場合は、これよりはるかに長い期間を経て分岐が進んだ。これだけ長い時間があったために、生態・形態の両面で、非常に異なる種の展開が促された。だがそれゆえに、これらの鳥が共通の進化過程を経ていると見抜くことはこれまで難しかった。
研究では363種の鳥のゲノムを分析し、中でも、自然選択の影響を比較的受けていないDNAセグメントに着目した。これにより科学者たちは、進化の過程や、これらの鳥のあいだの関係について、その詳細を解き明かすことに成功した。
これらのDNAセグメントには、種間の関係を示す進化のシグナルが、原形をとどめた形でより多く残されている。それが、これらの鳥が共通の先祖から枝分かれし、その後、地上や水中、空中の環境に適応していったことを示す新たなエビデンスとなった。
これらの多彩な環境は、研究者がこのグループをElementavesと名付けた理由でもある。このグループの鳥が生息する環境が、古代からある「四元素(Elements)」の概念のうち3つ(「土」「水」「風」)に、象徴的な意味で結びつけられるからだ。