製造業界からは元シャープ社長の片山幹雄が登場。総合電気メーカーの栄光と挫折を知る男が語る、日本の製造業が再び世界で勝つためのヒントとは。
「罠」にはまった日本の製造業
「製造業再起のプロセスはその『弱点』と表裏一体でもあります」そう語るのは、シャープ社長(2007年〜12年)、日本電産の副会長最高技術責任者を歴任し、現在は自身が立ち上げた企業、Kconceptで製造業などの経営コンサルティングを行う片山幹雄だ。失敗を後世に伝えるべく、初めて語ったForbesJAPAN 2022年12月号の記事、「日本電産を退社した片山幹雄の初告白。日本が勝つためのヒト・モノ・カネ」は大きな反響を呼んだ。
あれから2年足らず。韓国サムスンとの壮絶な戦い、その敗北の原因、AI登場後のグローバル製造業のあり方から導き出した「多品種少量生産時代の製造業の勝ち方」。それが「新サプライチェーン・マネジメント論」ともいうべき、処方箋だ。
片山のサプライチェーン・マネジメント論の根拠となっているのは、「日本企業が陥った6つの罠」という彼の分析である。成長した日本企業が陥りやすい6つのポイントを指摘しており、そのうちのひとつが「QCD競争の罠」というものだ。
Qは品質、Cはコスト、Dはデリバリーを意味し、製造業の重要な指標である。片山はその「QCD競争の罠」が日本の勝敗に最も大きな影響を与えたと言う。
「日本企業はCで韓国や中国の競合企業に負けたと語られがちですが、私はDこそが勝敗を決したと思っています。QとCは基本的に技術で決まります。この点、日本企業は劣っていなかった。しかし競合企業に投資余力で劣り、十分な供給能力と販売拠点数を保有できませんでした」
片山は理由として、日本では総合電気メーカーの数が多すぎて、重点領域への集中投資が韓国に比べて負けていたことをあげる。1997年のアジア通貨危機で倒産の危機に瀕していたサムスン電子は、韓国政府からの補助金や税制優遇、同国政府からの要請を受けたIMF(国際通貨基金)による緊急融資など、数々の後押しを受けて大胆な「選択と集中」を敢行。大幅な事業整理を行い、液晶テレビに集中投資した。これが、日本企業との明暗を分ける一因になったとした。
(「6つの罠」の詳細は、 『Forbes JAPAN 2024年8月号』 本誌で)
あなたの会社はどのタイプか? サプライチェーン3大タイプ
なかでも「QCD競争の罠」におけるDの重要性と日本の製造業が抱える課題は、サプライチェーンに落とし込むことであらわになるという。サプライチェーンとは、マーケティング、企画に始まり、設計、調達、生産からサービスまで、製品が消費者の手元に届くまでの一連の流れを示す。「下の図で表しているのは然るべきサプライチェーンマネジメントを行うことで、それぞれのユニット、チェーンが適切な長さと太さのパイプでつながり、蛇口をひねるとアウトプットとして売り上げ、利益がきちんと出てくる水道管のイメージです」
事業が行き詰まるときには、サプライチェーン上にも「詰まり」が生じている。片山はそう説明しながら、昨今のメーカーのサプライチェーンを大きく3つのタイプに分類した。読者諸氏は、自分の会社がどのタイプに当てはまるのか、ぜひ考えてみてほしい。