地球規模の災害による打撃に加え、戦争や紛争が原因で起こる原材料の輸入困難、そして国内での値上げラッシュ。食料自給率の低い日本では、近い将来、本格的な飢餓が蔓延するのではないかという不安に囚われる。
1960年代後半から80年代にかけて、SFではユートピアとは真逆の世界である「ディストピア」を描くことが流行した。当時は東西冷戦時代、全面核戦争後の終末世界や悪夢のような管理社会を想定した映画が数多くつくられている。
その中に、生殖の禁じられた世の中を描いた『赤ちゃんよ永遠に』(1972)や、30歳になった人間は抹殺される社会を描く『2300年未来への旅』(1976)など、当時問題となりはじめた「地球人口の爆発的増加」という問題に反応した作品がいくつかある。
今回紹介する『ソイレント・グリーン』(1973、リチャード・フライシャー監督)もその一つ。人口過多による食糧危機の延長線上のダークな未来を描いた、70代SF映画の名作だ。先月デジタル・リマスター版が公開され、話題を呼んでいる。
プランクトンからつくった栄養食品を食べる世界
冒頭は、この100年あまりのアメリカの風景をダイジェストで見せるもの。西部開拓時代の自然に溢れた映像は、都市化や工業化が進んだ19~20世紀前半、そして大量生産と環境破壊や公害などを報じる現代のニュース映像へとめまぐるしく変化していく。人口増加の象徴として、日本の山手線だろうか、私たちには見慣れた通勤ラッシュの場面も一瞬挿入されている。ドラマの舞台は温暖化が進んで年中暑い2022年の、人口が4000万人に膨れ上がったニューヨーク。住宅の供給が間に合わず、貧しい一般市民は車の中や古いビルの通路、教会などで寝起きしている。外出禁止令が解ける時間になると、彼らは巨大企業「ソイレント」社がプランクトンからつくったという栄養食品の配給の列に並ぶ。
「ソイレント」とは大豆(soybean)とレンズ豆(Lentil)から連想された造語で、完全栄養代理食品を意味し、「グリーン」はその色から来ている。極端な管理社会と同時に階層も二極化しており、市民が食べ物を求めてゴミ箱を漁る一方で、ごく一部の富裕層の家に貯蔵されているのは、一般の人が見たこともない牛肉や野菜。なかなかエグいディストピアだ。