映画

2024.06.29 14:15

50年前の想像がすごい。猛暑で食料不足の「エグいディストピア」│映画「ソイレント・グリーン」

「ソイレント・グリーン」の恐るべき実態

あらすじをざっと紹介しよう。主人公は警察官ロバート・ソーン(チャールトン・ヘストン)。「ソイレント」社の弁護士サイモンソンが自宅で暗殺された事件を追っていたが、途中でいきなり捜査打ち切りを命じられる。不審に思った彼は、事実を知ろうとサイモンソンのガードマンや「女」に近づくものの、自分も命を狙われるようになる。

一方、ロバートの同居人で元・教授である老人ソル・ロスは、仲間の老人たちと秘密裏に古い文献を調べた結果、サイモンソンが食品「ソイレント・グリーン」について何らかの真実を知ったために消されたとの結論に至る。安楽死を希望したソルの最期を見届けた後、遺体運搬車の荷台にこっそり乗り込んで巨大な工場に到着。工場内に侵入したロバートは、そこで「ソイレント・グリーン」の恐るべき実態を目撃してしまう。
(c)2024 WBEI

ドラマ中程で、配給される「ソイレント・グリーン」が足らず、ついに市民が暴動を起こす場面がある。その時制圧に使われるのが、車の前面に巨大なパワーショベルの付いたトラックで、人々をまるでモノのように掬っては荷台に放り込む。このドラマのラストから遡って思い起こすと、実に象徴的なシーンだ。
(c)2024 WBEI

50年前にここで描かれた、食料に関するもっとも残酷でおぞましい未来は、幸いなことに到来していない。人口増加の伸び率も、近年少し落ちてきたというデータがある。むしろ今後深刻な問題になるのは、気候変動による地球規模の災害だろう。

50年前に2022年をどう描いた?

一方で、人工肉の開発・研究が進み、さまざまな合成食品が出回り、「食」が溢れた都市でも飢えた子どもや餓死者が出る現代、「ソイレント・グリーン」の悪夢の何割かは、足元に忍び寄っていると言える。この作品で興味深いのは、テーマもさることながら、1973年当時に想像された2022年の社会のさまざまな設定だ。

まず、「未来的」と言える意匠は、富裕層の生活においてのみ描かれる。ソイレント・グリーン社の弁護士サイモンソンの暮らす高級マンションのインテリアは、『時計じかけのオレンジ』(1971)の金持ちの家を思わせる超モダンなテイストに、当時のSF映画に登場する宇宙船の内部に似たクールな雰囲気がミックスされている。ただ、コンピューターのその後の驚異的な発達と普及は予想できなかったようで、室内に大きな据え付けのゲーム機がある程度だ。
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文=大野左紀子

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