オランダのスマートフォンスタートアップ、Fairphone(フェアフォン)をはじめ、21世紀に入ってから、社会運動・社会批判としての側面を強くもつビジネス、「クリティカル・ビジネス」の存在感が増しています。
例えば、Fairphoneはリサイクル素材やフェアトレード部品から、修理のしやすさ、他社よりも長いセキュリティサポートを行うなど、環境への影響を最小限に抑えているスマートフォンメーカーです。同社は、「修理できる権利というのは社会運動なんだ」という主張をし、スマートフォン業界のあり方を批判するためのひとつの社会運動として会社を立ち上げ、運営しています。厳しい市場のなかでもその姿勢が若い世代を中心に消費者から支持され、累計60万台程度を販売し、市場ポジションを築いています。
「残存する問題が少ない」という問題
先進国は今、経済成長率の推移が低下している世界を生きています。世界銀行が発表している先進7カ国の国別GDP成長率の推移を見ると、統計開始の1960年代をピークに過去を1度として上回ることなく、着実に低下している。1990年代のインターネットの普及、2000年代のスマートフォンの普及、10年代の数々のテクノロジーイノベーションの普及により、大きく社会が変容し、生活が変化しても経済成長率には反映されていません。なぜ、イノベーションが起きているのにもかかわらず、経済成長率は低下して、反転の兆しがないのでしょうか。経済学者による最大公約数の回答は「社会に残存する問題が少なくなってしまったから」ということです。ビジネスは、それぞれの時代において社会に存在する問題を解決することで経済的価値を生み出してきました。ですから、社会に残存する問題が減ってくると、経済は停滞してしまいます。
社会に存在する問題を「普遍性(問題を抱えている人の量)」と「難易度(問題を解くのに必要な資源の量)」のマトリックスで整理すると、資本主義のもつ構造的な原理を踏まえれば、市場は「問題の普遍性が高く、難易度の低い」領域から解決します。この領域に取り組む企業が増えれば同領域の問題の多くが解消に向かいます。
そして、「問題の探索と解決」を連綿と続けていくと「問題解決にかかる費用」と「問題解決で得られる利益」が均衡する「経済合理性限界曲線」まで到達してしまう。曲線を内側から抜け出そうとしても「問題解決の難易度が高すぎて投資を回収できない」「問題解決によって得られるリターンが小さすぎて回収できない」という限界に突き当たります。
必然的な結果として、経済合理性限界曲線の外側にある「小さな個人的問題」と「大きな社会的問題」しか問題が残りません。テクノロジーが進歩し、イノベーションが画期的なソリューションを生み出そうとも、そもそも「解決されることで価値が生まれる問題」がなくなれば経済成長率は高まりません。これが今、先進国で起きていることです。
クリティカル・ビジネスの存在感が増している理由は、「小さな個人的問題」、「大きな社会的問題」として手を付けられることがなかった問題が、クリティカル・ビジネスを通じた社会の啓発とニュータイプの共感の拡散によって多くの人が「自分ごと」としてとらえて、「大きな個人的問題」となったことにあります。
それにより、経済合理性限界曲線は無効化し、市場原理の外側にあった問題は、市場原理の内部で解決可能な問題となり、これを解決するビジネスが資本主義・市場原理のなかで存在感を増しているのです。