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2024.06.16 13:00

日本の「才能」を世界に解き放つ唯一無二の「飲食店職人特化型投資ファンド」

ABF Capital 代表取締役の熊原充志

ABF Capital 代表取締役の熊原充志

才能のある職人に投資をし「社会的にも金銭的にも報われる」仕組みを創造した投資家がいる。まずは世界から注目されている食分野から始める新たな挑戦に込められた思いとは。


「この店は3月にオープンしたばかりですが、日本で一番、そして世界で一番のすき焼き屋になりますよ。我々の会社の志は、日本が世界に誇るべき才能を解き放つことです」
 
そう語るのは、才能のあるシェフ、サービスマンに投資し高級料理店を展開するファンドを運用するABF Capital代表取締役・熊原充志だ。熊原はJAXA(宇宙航空研究開発機構)、BCG、アドバンテッジパートナーズを経て2020年6月に同社を創業。21年9月より1号ファンド(10億円規模)を運用し、これまでに10件(人)の投資を実行。取材場所のすき焼きあさいも投資先のひとつだ。そのほかにも、日本料理、寿司、フレンチ料理、バー、洋菓子などさまざまな飲食店(料理人)に投資、バリューアップ支援をしている。

「料理人は大きな負担がなく独立でき、ファンドも十分なリターンを創出できる唯一無二のスキームだ」と熊原が自信をもって話すのが同社独自の1. ファンドから株式、金融機関から融資を調達しお店を立ち上げ、2. ハンズオンで支援をしながらお店の利益でローンを徐々に返済し、3. シェフが代表の新会社を設立し、お店の収益力をもとにMBOローンを調達し、4. 新会社がファンドの株式を取得し、シェフが100%オーナーになるという「MBOイグジット」のスキームだ。さらにABF Capitalによる経営や財務・マーケティングをはじめ、開店前からの支援も加わるかたちだ。

「我々の金融機関との信頼関係を生かし、かつ、開業時に投資をすることでいい条件での融資調達が可能になり、レバレッジを効かせることができる。MBOローン調達も関係の深い金融機関と早い段階から相談を開始し、スムーズなイグジットも可能になる。ローンで株を買い取るため、料理人も個人資産が不要。料理人、ファンド、金融機関の『三方よし』で全員が幸せになれる。開始2年ですでに1件のイグジット実績も出て、IRR(内部収益率)も一般的なPEファンドの平均パフォーマンスの3倍以上だ」
 
同社は24年4月、2号ファンドを組成し、投資対象をシェフ、サービスマンから「生産者や食器・工芸品などの食に関連する職人」まで広げる。ファンド規模は1号ファンドの2〜3倍になる。

「日本には世界に誇れる職人がたくさんいる。そのすべての職人が社会的にも、金銭的にも報われてほしい。この思いをもつ人は多いですが、慈善事業では意味がない。僕らのこの仕組みがもうかれば、参入する投資会社・投資家が増え、永続的に続く。私たちがファンドとしてリターンにこだわるのはこの志を果たすためです」
 
取材の最後、熊原はお店についてうれしそうに話をしてくれた。「牛肉は、滋賀県にいる『牛の神様』と呼ばれている方のところに行き、なんとかお店で使えるようになった自慢の食材。このテーブルのヒノキも奈良県の木材業者に一緒に探しに行きました。結局、好きなんですよね」


熊原充志◎ABF Capital代表取締役。東京大学大学院理学系研究科修了後、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、アドバンテッジパートナーズを経て、2020年にBCGの同期3人と同社を設立し、現在に至る。1990年生まれ。

文=山本智之 写真=ヤン・ブース

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