温かい海でも養殖できるサーモン 現役大学院生のスタートアップ

Smolt公式ホームページより

地球温暖化により海水温が上昇し、冷たい海域(18度以下)での飼育が必要な養殖サーモンの生産効率が低下している。そこで、なんと温暖な宮崎県のスタートアップが高温耐性サーモン(サクラマス)の品種開発を進めている。同社は、その開発強化にともない、事業提携パートナーの募集を開始した。

宮崎大学大学院農学工学総合研究科の博士課程に在籍中の上野賢氏は、学部生時代に魚類研究で生産現場を訪れるうちに生産者の熱意や課題を感じ、サクラマス養殖の事業化を決意。2019年に宮崎大学発ベンチャー第1号となるスタートアップ、Smolt(スモルト)を創業した。担当教員の内田勝久教授らとともに、宮崎県の温かい海でも育つサクラマスの品種開発を行っている。
Smolt代表取締役CEO、上野賢氏。

Smolt代表取締役CEO、上野賢氏。

サクラマスは、川で生まれたヤマメが海に出て、戻ってきたサケ科の魚。通常のサクラマスの養殖では、淡水で稚魚を育て、一定期間海水で育てて出荷するが、Smoltは、海水温が高くなる時期に再び海から冷たい淡水に戻して育てる「循環型養殖」という方法を生み出した。こうすることで、サクラマスは何倍にも大きく成長する。

またこの方法には、寒い時期に養殖を行わないブリやカンパチの空いた生け簀を有効活用できるというメリットもある。これまでに、高温に強い品種と成長の早い品種を6世代掛け合わせて、20度前後の環境で育つサクラマスを開発し、その稚魚と生産技術のパッケージを販売。すでに、全国数カ所に導入されている。

淡水から海、そしてまた淡水に戻る循環型養殖は、天然のサクラマスの「生き様をリスペクト」したものだとSmoltは言う。これを同社は「本桜鱒」というブランドで出荷している。

Smoltの循環型養殖は、科学技術とイノベーションで社会課題を解決する日本の取り組みを表彰する科学技術振興機構の「STI fot SDGs」で「科学技術振興機構理事長賞」を受賞した。現在は、22度以上という、サクラマスにとっては超高温となる環境でも養殖できる品種を開発し、全国的なサーモンの循環型養殖の社会実装を目指すと同時に、サーモン養殖に課題をもつ事業者やサーモン養殖の新規参入を考えている事業者を対象とした事業連携パートナーを募集している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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