高千穂線は、かつては延岡と高千穂を1時間半で結ぶ地域住民の足として活躍していたが、2005年の台風14号で2つの橋梁が流され全線廃線となった悲しい経歴がある。それが見事に復活し、悲願だった高森までの延伸も実現した。ただしそれは、Nゲージの鉄道ジオラマでの話。
鉄道橋として日本一の高さを誇る高千穂橋梁で有名な高千穂線は、1935年に国鉄日ノ影線として延岡と日向岡元の間で開業、1972年には高千穂まで延伸し高千穂線と改称された。1975年には高森まで延伸する予定がトンネル工事中の異常出水事故で中断し、そのまま凍結。当時はそのトンネルで宮崎県と熊本県が結ばれるはずだったので「幻の九州横断鉄道」とも呼ばれている。1989年には第三セクターの高千穂鉄道に経営が移され観光路線として人気を集めたが、2005年の台風で全線に甚大な被害を受け、やむなく廃止となった。
しかし復活を望む声は強く、2006年に有志の支援が神話高千穂トロッコ鉄道株式会社を設立したものの、資金面などの問題により第1種鉄道事業者の許可の申請を断念し、解散。だが2008年には負けずに高千穂あまてらす鉄道を設立すると、手作業で線路の保全に努めた。その熱意が高千穂町に伝わり、高千穂駅の利用許可を得て構内に鉄道ミニ公園を開設。社長をはじめ社員らが木製トロッコに子どもたちを乗せて手押しで構内を往復するなどの地道な活動を重ねた。
そうした甲斐あって、2012年からは軽トラックを改造したトロッコを走らせるようになり、現在は60人乗りのディーゼル車両を「遊具」という形だが高千穂駅から高千穂橋梁までの区間で運行するまでに至った。
今でも、生活路線としての全線復活と高森までの延伸を望む地元の期待は大きい。高千穂あまてらす鉄道も、第1種鉄道事業者の許可を得て、高千穂線での旅客営業を再開させる夢を捨てていない。そこで、なんとか路線再開につなげようと、2023年12月、旧高千穂駅構内に「高千穂鉄道記念資料館」をオープンした。そこに展示されている6畳分ほどの大きな鉄道模型ジオラマに、かつての高千穂線全線が再現されているばかりか、夢の高森駅までの路線も作られているのだ。
ジオラマに加え、共同通信デジタルが同鉄道の映像コンテンツ『ファンタジー線の旅』を制作し公開している。このジオラマには、どれだけの地元の人たちの思いが込められているのだろうか。これほど「熱い」ジオラマも珍しい。
プレスリリース