この会社は、実はスタンフォードの「バイオデザイン」プログラムから生まれました。
バイオデザインは、2001年にポール・ヨック博士を中心に、スタンフォード医学部に設立された、医療機器イノベーション人材育成プログラムです。その後、同様のプログラムがカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やハーバード大学、2015年には日本の3大学(東京大学、大阪大学、東北大学)でもスタートし、いまに至ります。
現在リーダーを務めるのはジョッシュ・マコワー博士。バイオデザインの共同創業者で、昨年ポール博士からその座を引き継ぎました。
現在UCLA のバイオデザインでディスカバリー・フェロー(研究員)として活動中の串岡純一博士さんが、ジョッシュ・マコワー博士に、バイオデザインのことを聞きました。
──バイオデザインの共同創業に至るまでのキャリアについて教えてください。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の工学部、ニューヨーク大学医学部を経て、コロンビア大学でMBAを取得し、ファイザーに就職しました。その後にスタンフォード大学医学部に来ました。
人を救う可能性のあるものを作ることに興味を持っていたこともあり、医学部に進学しました。ただ、卒業後は、伝統的な医学の道よりスピード感を持って社会に影響を与えることができると考え、ビジネスの世界に進んだのです。ファイザーでは、顧客のニーズに焦点を当てたイノベーションプロセスを提案しました。数年経ってファイザーを退職し、同じプロセスを使って独自のインキュベーション(起業や事業創出のサポート)を行いました。インキュベーターとしての経験から生まれた企業は10社近くになり、この「バイオデザイン・プロセス」をベースに、スタンフォード大学医学部のポール・ヨック教授と2000年にスタンフォード大学院でバイオデザインのプログラムを作りました。
ジョッシュ・マコワー博士と串岡純一
第一目標は人材育成
──バイオデザインとはどのようなものなのでしょうか。「バイオデザイン」は、主に医療機器分野のイノベーションを生むためのプロセスを学ぶもので、次世代のリーダー育成を目的としたプログラムです。スタンフォード大学で始まりましたが、現在ではUCLA、ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンス大学をはじめとするアメリカ国内外の多くの大学で展開されています。これまでに1000人以上の学生を育成しており、世界中に影響を及ぼしています。
──先日、医療機器メーカーのショックウェーブ・メディカーの大型買収がありましたね。
同社は、バイオデザインの研究員であるトム・ブリットンによって創設されたバイオデザインの成功例の一つで、現在急成長しています。もともと尿路結石治療に使われていた超音波石灰破砕法を、冠動脈石灰化病変に応用するというアイデアを生み出し実装しました。
そのほかの成功としてはマイケル・アッカーマンです。彼は、バイオデザインプロセスを活用して複数のバイオテクノロジー企業を設立し、その中には株式公開を果たした企業もあります。こうした成功事例も多くありますが、もちろん失敗する企業もあります。
ただ、私たちの第一目標は人材育成であって、インキュベーションではありません。私たちが目指しているのはプログラムに参加する一人ひとりに、それぞれのキャリアでの成功につながるような素晴らしい経験を積んでもらうことなのです。